白河夜船 6
赫赫たる朝日を遠望すれば、さながらニーチェ
の永遠回帰を思うべし。今は忘れたが、スイス
だったであろうか、何とか湖のほとりでニーチェ
ツァラトゥストラはかく語りき、を着想したのは。
今となってはいかほどの有効性があるやは、
詳らかであらねど、絶対をとなえるあやしげな
るいかなるいかなるドグマを粉砕するに、ニー
チェ思想ほど有効な武器はない。あなどるな
かれ、まだまだ老骨は健在なり。ぬばたまの
闇夜のなに、混沌たる思想のカオスに目を
くらませられるとき、そんなとき一服の二ーチ
ェ服用すればいい、たちまち視界が開けるこ
とまちがいなし。ゆめゆめおろそかにするべ
からず。いみじくもすぐれたるわざなるかな。
いまはただ脱帽あるのみなり。
ぼくの手帳より
64.明日、世界が滅びるとしても、今日、あ
なたはリンゴの木を植える。
開 高 健 享年58歳