白河夜船 5
雨は嫌いじゃない。雨を待っている人たちもたく
さんいるのだし、雨具を使っている子供たちの列
をなして登校している姿は、なにやらひよこの行
進にさもにたりて、ぼくにとってはこよなく気に入
ったことである。
それにシェルブールの雨傘なんていう素敵な
映画があったじゃないか。絵に描いたような悲
恋であったが、実によかった。ストーリーなんか
どうでもよかった、ただただカトリーヌ.ドヌーブ
の美に酔った。現在のドヌーブも相変わらず綺
麗におわすが、泰然自若の美とでも形容した
いが、古はふれれば折れるの感があった。時
の経過の無残さを思ふ。
ぼくの手帳より
63.よい仕事をしたあとで一杯のお茶をすする。
お茶のあぶくにきれいな私顔がいくっもうっつて
いるのさ。どうにか、なる。 太 宰 治
1948年昭和23年6月13日深夜に玉川上水
に入水 享年38歳