おとこがひとり、コートのえりをたて、ねこぜぎみにあるいている。
今日は、ひとり娘の10歳になるカルミの誕生日なのだ。
会社のかえりに、娘がほしがっていた人形と本も買ったし、ケーキは妻が買っているはずだ。
電車の駅をでて、家まで徒歩で20分ほどかかる。
結婚したては、賃貸マンシヨンだったが、子供が生まれてしばらくして、ローンで建売住宅を買った。妻へのプレゼントのつもりだった。
おとこの両親はすでに亡くなっているが、自分の子供のころを、歩きながら思い出した。
おとこばかりの三人兄弟の二番目で、よくけんかをして、両親にしかられた。
だが、誕生祝いをしてもらった記憶がない。
むりもない、いまから思えばまずしかったのだから。
おとうさんは、ついに自分の家をもてなかった。
そのかわり、こどもたち三人をきっちり教育してくれたのだ。
いまからおもえば、もっと親孝行しとけばよかった。
親孝行した記憶がまったくがないのだ。
おとこは、あるきながらすこし辛くなってきた。
めが涙でうるんで、ちかずく自分の家がかすんでみえる。
コートのそでで涙をぬぐい、おとこは扉を開け、
「ただいま」
と、元気なこえでいった。