五年ほど前、つきあっていた女性がいました。
その当時、ぼくはまずしいサラリーマンでした。
給料がやすく、部屋代と食費でほとんどなくなりました。
彼女は、お家が商売をしている、いわゆる御嬢さんなんです。
ぼくは、仕事が営業なので、時間が不規則だし、日曜出勤もときどきあるので、デートは、週に一二回ぼくの部屋で彼女が夕食を作ってくれて、二時間ほど時間をすごすのです。
ある日、約束どうり、彼女がスーパーで食材を買って、部屋にきました。
料理はおたのしみで、なにをつくるかおしえてくれません。
ぼくは、仕事の資料のせいりをしながら、料理ができるのをまっていました。
1DKの部屋のDから彼女の鼻歌とまな板をたたくおとがきこえてきます。
しばらくすると、フライパンの油がはねるおとがします。
(なんだろうなーーーー)
はらがグーとなります。
「できたわよ。目をつぶってください」
と、彼女は歌うようにいいます。
ぼくは、目を閉じてまっています。
「なにかなあ」
と、ぼくは甘え声でこたえます。
テーブルのうえにお皿や茶碗をおく音、料理のあったかな匂い、もうたまりません。
「はい、目おあけてーー」
との、彼女こえに、ぼくは目をあけると、テーブルの上にはぼくが大嫌いなレバニラいためがありました。
がまんして一口二くち、くちにしましたが、どうしても飲み下しません。
ぼくの食事のようすを見ていた彼女は、すこし顔色が青ざめ、気まずい時間がながれました。
「たべてくれないのね」
彼女は吐き出すようにいって、泣きながらバッグをもって部屋をとびだしました。
その後、彼女との連絡はとれませんでした。
やがて風のたよりに、彼女が医者と結婚したとききました。
ぼくは知ってます。ぼくがレバニラいためが嫌いなことを、彼女は知ってて作ったのだと。