2023年が明け、お正月の7日、「第39回土光杯全日本青年弁論大会」が開催されました。

 

<第39回土光杯全日本青年弁論大会>

フジサンケイグループが主催する弁論大会。昭和を代表する経営者、土光敏夫が活動の中で、日本の未来を担う若者の力を育成すべく開催した弁論大会。応募資格は18~35歳。例年、日本の未来に向けた提言を演説のテーマとし、今年のテーマは「激変する世界を生き抜く」。演説時間は8分+質疑応答2分。審査は論旨70点、態度声調15点、質疑応答15点の合計100点。今回39回を迎える。原稿審査を経て選出された10名による熱弁が振るわれる。

 

 日本を取り巻く情勢を踏まえた、若者達による熱弁が繰り広げられました。

 

1.「強くあるために」 正躰 幹人さん

 日本は、強くあるべきなのだ。それは軍事的、経済的にも勿論だがエネルギー的においてもである。昨今、ウクライナ戦争に端を発し世界的にエネルギー危機が叫ばれている。ロシアのエネルギーに依存していたドイツの例を見れば、偏った外部依存は危険なのだ。国民生活の充実は国の強さに繋がる。しかし、我が国もまたエネルギー自給率は12%、再生エネルギーの活用が声高に叫ばれるが問題は山積みである。とりわけ大きな問題は、再生エネルギーは①安定供給できないこと、②設備の調達が外国依存であることである。エネルギーは安全保障に繋がる。我々は欧米を端に追随するのではなく、エネルギーの調達をリスク管理としての批判的な視点から見直し、日本のプレゼンスを確立していくべきなのである。

 

 エネルギーの確保という視点から、日本の在り方を捉えた力強いお話でした。特に、危機というものを漠然とではなく、具体的に捉えており問題を明確化しています。

 一方で、タイトルの「強くあるために」が大きな範疇を示しているだけに、そこからエネルギー問題に焦点を当てると、問題自体を縮小して捉えている感が有ります。タイトルを見直すと良いでしょう。また、「である」調のため、聴衆と繋がり問題を共有するという場を作り切れない面も見受けられました。

 これらの違和感をクリアすることで、より主張の生える弁論となります。

 

2.「ワーキングマザーを憧れの対象に!―自己実現できる母親を増やす―」 吉田恭子さん

 2児の育児と仕事をこなす私は、子供達から「吉田お母さん」と呼ばれている。子供は可愛い。だが、「お母さん」としての自分ばかり求められるのは辛かった。そんなとき、あるセラピストの方からの言葉「自分のやりたいことは絶対にやった方がいい!」に勇気づけられた。皆さんの周りにも、やりたいことを諦めているワーキングママは居ませんか?彼女らの幸せを実現するために、是非①ベビーシッターの利用体験、②リスキリング(学びなおし)支援を行って欲しい。子供たちは、親をよく真似る。親とは人生の先輩であり先生なのだ。だからこそ、ママ達が人生を輝かせることには意味があるのだ。ママ達の輝く社会を作っていこうではないか。

 

 ご自身の経験を社会への提言にまで纏め上げられた、素敵なお話でした。ワーキングママ達への力強い応援となっていますね。

 伝えようとする意識が強いのは良いだけに、自分に向けて語り掛ける場面を作ると良いでしょう。そうすることで、「発信する」ではなく「引き込む」伝え方となりお話に聴衆が入り込みます。また、テーマである「やりたいことをする」はワーキングママに限らないため、ワーキングママに絞る必要は無いように思えました。

 

3.「北海道が直面している危機」 マニング ダニエル キエロンさん

 赤死病の仮面という話がある。流行り病が蔓延したとある国で、その悲惨な状況から目を背け続け、城内に籠りパーティを開いていた貴族達が、ある時の仮面舞踏会で赤死病の仮面を身に着けた存在にパニックを起こし、皆亡くなってしまう話である。今の日本は、まさにこの病に罹っている。その最たる例が北海道の現状だ。多くの中国企業や、個人が北海道の土地を買っている。中国の武器は中国人と云われる通り、これは侵略なのだ。国連等、訴える機関にもその手が伸びる中、日本はこの危機から目を背け続けている。しかし気付いた時には遅いのだ。他の誰でもない、日本人自身が危機意識と長期的視点を持って見据えるべき問題である。

 

 淡々とした語り口が、逆にことの重大さを表わしている、まさに警鐘を鳴らすお話でした。中国という隣国についての考察も目を見張るものが有ります。

 最悪の展開をシミュレートされているだけに、どう対処していくかの意見を挙げていくことで、より説得力の増すお話になると感じました。

 議論、そして対処の切掛けをとなる緊迫感のあるお話でした。

 

4.「真なる主権国家「日本」をめざして」 伊藤 渚希さん

 「誠に遺憾です」北朝鮮のミサイルに対しての日本のお馴染みの声明。この声明には政府が日本国民を守る気どころか、緊張感すら感じられない。我々の住む日本は、中、朝、ロと核を持つ隣国に取り囲まれているのだ。国防の在り方で国体が変わっていく。他国に目を向けければ、ロシアとウクライナの戦争は一方的な見方によってはいけない。大切なのは平和とは正義を伴うべきもの、と知ることである。そして、政治は人々のために行われるべきものなのだ。そのためには、①自文化を愛し、②他文化を理解するという精神性を持つことが大切であり、その判断のためにジャーナリズムも真実を追求する必要がある。

 

 高校生の視点から政府の態度や、ニュースの偏った見方に対しての警鐘を鳴らす展開は、冷静かつ公平であり見事なものでした。

 方向性は十分に示せているので、より具現化した意見を後半に持ってきたいところ。具体的な政策提案が入ることで、意見としての価値がより上がります。

 しかしながら、現在の日本への分析が光るお話でした。

 

5.「歴史から学ぶ」 横井 健次郎さん

 日本財団の調査によると、若者に日本社会の責任ある一員であるか聞いたところ、YESと答えたのは44%。他国に比べ若者の責任感が薄いことが浮き彫りとなった。大学の先輩に連れられて訪れた靖国神社の遊就館には、先の戦争で自分と同じ年齢の青年が日本を背負い戦った記録が在った。彼らはどんな気持ちで戦ったのだろうか、私は地元関西、兵庫の鶉野資料館に赴き副館長の植松さんから話を聴き、多くの青年が、日本の未来を思いここで訓練していたことを知る。このことを友人に伝え、若者同士で当時の先人の想いを伝え合い、そしてまた友人たちを鶉野資料館に連れて行き、共に先人たちについて学ぶ機会を得た。特攻隊を二度と作ってはいけない、しかし先人の想いを胸に、次は自分が日本を背負い戦うその気持ちを伝えていきたい。 

 

 力強いお話でした。ご自身の経験からなる決意がよく現れています。以前に別の大会で拝見した時よりも、表現にも磨きがかかっておりますね。 

 若者の在り方に加えて、何故こうした現状を招いてしまったか、今の日本の教育の在り方や方針についての提言を加えることで、「若者が日本を背負う」という想いが持てる国家とは何かをも伝えてほしいと感じました。

 是非、視点を加えての意見も聴いてみたい内容でした。 

 

6.「志を継承する」 北野 隼さん

 未来の子供たちにどんな日本を残したいか?いや、その未来は来るのか?今、若者の日本離れが進んでいる。戦争が起きたら戦うかの問いに、はいと答える若者は10%。我々は、歴史の教育を通して「当事者意識」を育てるべきではないか。経済ではシンガポール、国政ではマレーシア、国防ではウクライナがお手本となる。国を良くしようという志は当事者意識から成るものなのだ。その為には、暗記だけの今の歴史教育を改め、考えながら学ぶことが大切である。私自身、社会人となり靖国神社や世界に感謝された日本の在り方を知った。歴史を学びなおし、ジャパンアズナンバーワンとした世界へのリーダーシップをとる、そのために共にあきらめずに学ぼうではないか。

 

 志とは何かをしっかりと定義することで、骨子ができているお話でした。展開としても纏まっており、力強いですね。

 言葉の速さが気に掛かりました。聴衆が付いてこれるように、もう少しスピードを落としましょう。また何故若者が日本離れを起こしているのか、そこについても言及されることで、決意以上の多角的な視点からの意見となります。

 是非、そうした視点を加えてお聴きしてみたいと思いました。

 

7.「和の精神」 玉井 麻尋さん

 暗闇の未来であった明治期の日本、その中で流されずに先人達が乗り切ったのは日本の和の精神のお陰である。聖徳太子の十七条憲法にも説かれた、和の精神は日本人の根底にあったのだ。現代の日本人は、自分とは何かを考えられない人、人に本気で向き合えない人が増えた。SNSが普及し、孤独な人が増加している。私は人間学でどう生きたいかを学ぶ中で、自分で正解を考えることの大切さを知り、それを塾の講師の傍ら高校生に教える機会を持った。和の精神とは、自分のみならず周りをも共に幸せにする考えであり、そのために如何なっていきたいのかを考える、そして選んだものを正解にする、そうしたことができる人材が、これからの日本に必要なのだ。

 

 8分間の中に、日本古来の和の精神の在り方、そしてそれを現代に活かすための考えを盛り込んだ、ボリュームのあるお話でした。ご自身で考えを深めていることがよく分かります。

 SNSの普及とありながらも、孤独な人が増加しているという点については、繋がるツールができたのに何故という疑問が浮かびました。よりこの辺のお考えは聴いてみたいところです。

 考え方が深堀されており、もっと聴いてみたいお話でした。

 

8.「小さな手が繋ぐ幸せと日本強靭化」 真野 友美さん

 特別養子縁組という制度をご存知だろうか。親に望まれなかった子供と、子を望んだ里親を繋げる制度である。今、日本では約3万人の子供が望まれず生まれ乳児院で過ごしている。子供は日本の宝である。政府は人口減少を安易に移民で補おうとしているが、文化やモラル、ルールの異なる移民を受け入れるには課題が山積みであり、また一部が崩れると国は簡単に壊れてしまうのだ。特別養子縁組には、親権や血縁という多くの壁がある。しかし、日本に生まれた子供達の幸せを願い、繋げることこそ人を大切にし日本を強くする礎となるのではないか。是非、そこに目を向けてほしい。

 

 特別養子縁組という制度に対しての提言、そして人を大切にすることが激動の時代を乗り越える国へとつながるという、具体的かつ説得力のあるお話でした。

 内容が素晴らしいのですが、ボリュームがありすぎ、駆け足での伝え方となり、聴き手が受け取れていない部分があったのは残念です。内容が時間内に納まるように言葉を選び、また原稿に目を落とさず伝えられるようにしましょう。

 

 

9.「メリット、デメリットを超える「物語」を伝えたい」 蜂谷 翔さん

 昨年2月のロシアのウクライナ侵攻は、話し合いと国連中心の日本の外交軸が崩壊し、安倍元首相暗殺など激動の時代となった。この時代を乗り越えるにはメリット、デメリットを乗り越える物語が必要である。自分は、現在の大学生に憲法への自衛隊明記の是非を聴いたところ、81%が賛成と回答を得た。しかし一方で、自分たちは戦うかとの問いにはYESは10%であった。今の若者は、自分の損得で物事をかぎ分けているだけなのだ。一方で、ウクライナは今戦い続けている。それは祖国を守る、そこに物語を持つからである。徳島の特攻祈念館で、かつての日本の若者の遺書に触れ、歴史とは先人たちの物語であることを知る。個人レベルでしか考えられない今の若者たちに、その物語を伝えていきたい。

 

 国家、民族の在り方を伝える物語の大切さについて、改めて考えさせられるお話でした。損得以上の意識を持つべしという主張にはハッとさせられます。

 一方で、物語とはどのようなものか、そして今の日本が物語を語るには何が必要であるのか。日本という国家の心構えが現状のままで良いということでもないと思いますので、是非その点についても深く聴いてみたいと思いました。

 

10.「日本語を愛し国を守る」 小西 沙紀さん

 大人になった貴方を支えるのは、子供のころの貴方である。今、私は本に携わる仕事をしている。私たちは日本語を通し、日本という国を学んできているのだ。しかし、国語の授業は戦後GHQの政策で制限を受け、さらに近年は授業数が減り、文学に触れる機会もままならなくなる。香港やチベットを見ればわかるが、言語が失われれば国が失われる。移民の多い国には国語の保護法があるのだ。国語教育は今、危機に立たされている。自分は今、読み聞かせのボランティアをしている。草の根活動に不安があるが恩師をはじめ多くの人に支えられ、少しづつ活動が広がっている。母国語の教育は公の精神を養い、それが激動の時代を生きる人づくりへとつながることを信じて、これからも活動を続けたい。

 

 母国語の大切さについて、具体例を適宜挙げつつ伝えられており、また表現も緩急が非常に上手く、引き込まれるお話でした。

 母国語を学ぶことと、公の精神を育むことの繋がりが薄いため、ここには繋ぐための言葉が必要かと思います。また、ご自身の話は前半に持ってくることで、私的な考え⇒公への提言の流れがスムーズになります。

 個人的には、日本語とはということについてより聴いてみたいですね。

 

 

 以上、10名の弁論でした。

 激動の時代を生き抜くための、様々な視点を聴かせて頂いた一方で、自分の持つ意見に対してのアンチテーゼや別視点での考えを話の中により取り入れると良いと思うお話も見受けられました。

 また、質疑応答のある大会(質問は審査員のみ可)でしたが、内容に踏み込む様な質問が余りなかったため、質問により弁士の意見をより引き出すことができず、制度が活かされていない様にも思えました。

 

結果の方は、下記と相成りました。入賞された皆様おめでとうございます。

 

最優秀賞 土光杯:小西 沙紀さん

優秀賞

フジテレビ杯  :横井 健次郎さん

ニッポン放送杯 :蜂谷 翔さん

産経新聞社杯  :マニング ダニエル キエロンさん

特別賞 岡山賞 :伊藤 渚希さん

 

入賞できなかった皆さんも、個々のお話に強いメッセージが有りました。

今回の結果には、表現方法や練習量も大きく左右しています。

是非、提言した内容をこれからも多くの場所で伝えて頂きたいと思います。