建国記念日の11日、「第14回くにまもり演説大会」が開催されました。今年はハイブリッド開催(現地+オンライン)とのことで、オンライン配信の動画視聴しました。

<第14回くにまもり演説大会>
㈱キャリアコンサルティングが主催する演説大会。「世界の手本となる国、日本。その為には、良い文化は伝え、悪くなったところは直す。国の未来は若者の質で決まる。公を考え、やさしい若者をつくる。実力者が要職に就き、誠実に働けば、国はすぐに良くなる」という趣旨の元、29歳までの成人による日本の未来を考えることを演説のテーマとした大会。演説時間は10分。今回で14回目となる。3次まで有る予選を突破した8名による熱弁が振るわれる。


 審査員は保守系論壇で活躍される方々であり、日本という国とどう関わるかということに対して若人が思うところを述べるという大会です。


1.「私たちがこれからの日本」 鈴木 駿介さん
 「くにまもりって・・何?」9年前にこの大会と出会ったことが切っ掛けて自らもくにまもりについて考える様になった。学ぶ中で歴史上の偉人にヒントが有ると考えた私は、印象的であった日露戦争の偉人の足跡を訪ね、そこでそうした偉人にも日常があること実感し、親近感がわいた。また、全国の歴史資料館に問い合わせ、先の戦争を生き抜いた人々から話を聴くこともできた。話を聴く中で、その時代に何をすべきかを考え、生き抜いた日本人の気概を感じた。
日本財団が各国の若者に行った調査「私達の国を良い方向に変えていけるか?」に、YESと応えた割合が一番低かったのは日本であった。しかしこれからの時代は、今を生きる我々次第なのだ。共に時代を作っていく、そう考える若者をこれから増やしていきたい。


 力強いですね。これからを私達が担っていくのだという覚悟と気概が演説から伝わってきます。気持ちが有ってこそ行動に繋がるという意味でも、くにまもりというテーマの根幹に触れている演説です。
 力強い決意であるので、これから鈴木さんがどの様な国を創っていきたいのか、その描いている国のかたちが演説に入ってくると、より響きます。
 続きを聴きたくなる、これからが楽しみな演説でした。

2.「見えないものを見る力」 小泉 真奈美さん
 皆さんには、見えないものを見る力が有る、それは人を救う力なのだ。近年パニック障害・うつ病の増加が問題となっている。私もこの眼に見えない病に苦しんだ一人であった。普通にしていたいのに体が動かない・「甘えている」という心無い言葉に私が嫌いになり、学校も休みがちになってしまった私を勇気づけてくれたのが家族・そして友人で会った。
 普通に接してもらえたことで、私が生きていて良いと思える様になり復学し大学へ。同じ様に悩む人々を支援したいと思い、心のケアのNPOに参加した。小学生の子に私の体験をもとに接し、回復していくその子を見て、今の時代にこの力が必要であることを改めて実感する。寄り添えば人は救えるのだ。多くの人の明るい未来のため、この力を大切にし広げていきたい。

 
 ご自身の体験が昇華された、気持の伝わる演説でした。今という時代に必要な力の訴えが強く響きます。
 ご自身の体験からもう一歩踏み込み、何故うつ病が増えるのかということが意見として入ってくるとより内容が響きます。また、文節で声が高い方伸びがちになるのでその点は注意しましょう。
 暖かさのある寄り添い・繋がりの垣間見える素敵な演説でした。 

3.「今こそ日本を減税大国に」 和氣 千郷さん
 想像してください社会人になっての初任給「え、これだけ?」。明細で引かれる税金に、約7割の新社会人が愕然としている。住民税のシステムを作るIT企業でSEをしている私は税金について調べるうち、この50年で給料から引かれる税金・保険料が2倍となっていることを知り、減税についての勉強を始めた。
 景気の良い時の増税はプラスになるが景気の悪い時の増税は経済を悪化させ、国民を苦しめる。税金は必要な分を必要なところに充てていくべきではないか。世界が景気の悪化に減税に舵を切る中、日本はさらに増税をしようとしている。私は減税を応援する団体に所属し、取り組みを行っている。税金が引かれるのは当たり前、それは思考停止なのだ。国民の幸せ、そして国の未来のためにも今一度税金をについて見つめていこう。


 着眼点もそうですが、身近な例から国の制度までを一本に繋げる展開力が素晴らしいです。減税というお堅い話ですが所々でユーモアが入ることで、聴衆を適度にリラックスさせているところも良いですね。
 日本が税金を上げている理由が見えてくると、税金として必要な分なのか余分な分なのかの判断が聴衆にもでき、より説得力の有る演説となります。また、原稿はある程度頭に入れておく様にしましょう。
 皆が見落としがちな税金への問題提起、そして視点が面白い演説でした。 

4.「強い日本は強い特許から」 牛島 倫太郎さん
 技術大国日本、戦後日本の復活の背景にはこの技術力が有った。しかし、その技術が今失われつつある。私は日本企業が海外で特許を取るサポートをする仕事をしている。特許には、国内と海外の二つが有り、海外の特許の制度の厳しさと日本企業の認識の甘さから、日本企業の海外での特許は進んでいない。そしてその結果、海外に真似をされるケースが後を絶たない。
 技術は真似こそ簡単だが、産み出すのは本当に難しい。失うのは金額だけではなく、職人や技術者の熱意や想いなのだ。このままでは日本の技術は食い物にされ日本人は技術に夢を抱かなくなる。日本の武器である技術を手放して何が残るのだ、私はその技術を守る特許という力を多くの人に伝えていきたい。


 日本が持つ、認識の甘さと喫緊の課題を危機感を以って伝えられていました。見えていなかった脅威を明確にし、対処のための行動を促す、非常に説得力の有る演説ですね。
 全体像として、海外の特許を取ることの重要性が見えてきたので、さらに細部(方法論や、優先すべき事項)までも踏み込んでみても是非聴いてみたいところです。
 技術立国日本に迫っている脅威に正に警鐘を鳴らす演説でした。


5.「先代の想いを繋ぐ~老舗店から見えたこと~」 興梠 紀乃さん
 実家の宮崎は100年続くうどん屋、しかしコロナ禍の影響で経営危機となった、激減した売り上げに落ち込む母。何とかしたいと思い、オンライン販売サービスを立ち上げるべく私がクラウドファンディングを取りまとめることにした。SNSにて実家の老舗店としての歴史や伝統、今の経営状況を発信にも取り組み心無い返信も有ったが多くの応援に励まされた。見事に目標金額を達成、応援してくれた人々にお礼をする日々は幸せであった。
 しかし、それでも想いは叶わず実家は買収されることとなる。有って当たり前、そんなものは無いのだ。それはこの国も同じ。だからこそ、存続のために多くの人々が考え、行動して欲しい。


 ご実家の大変な経験から学んだものを、公的な考え方へと広げている展開が印象的な演説でした。実感のある伝え方が多くの人々の共感を呼んでいますね。
 一方で老舗であるからこそという意味合いは、薄く感じてしまいます。老舗が持つ伝統や歴史を断絶させないことの大切さについては、より深く伝えられるのではないかと感じました。それが、主張への繋がりをより強くして行きます。
 気持ちの籠った、広がりのある考えが見えた演説でした。


6.「この左手で生まれて良かった」 平良 友依さん
 皆さんの手は何本ですか。私は生まれつき左手の指が2本だけ。小さい頃からできないことも多く辛い目に合い、前向きになれず全てを左手のせいにしていた。そんな折、パラリンピックを目にし、障害を持ちながらも活躍する選手から目が離せなかった。中でも陸上の伊藤智也選手はある日突然難病となり、それを克服してメダルに輝いていた。
 今そうでなくともある日突然、障害を持ったり難病になることも有るのだ、そうした人でも前を向いて生きることの大切さを知り、自分が本当にやりたかったヘアメイクの勉強を始める。そして、努力する私を見て多くの人々が勇気をもらったことを知った。伊藤選手の言葉「障害を持つ人の誇りになりたい」、私はこの言葉に励まされた。今度は私が多くの人を勇気づけていきたい。


 自分自身の持つ障害と向き合い、克服してきた万感の思いが現れていますね。徐々に帯びていく熱が胸を打ちます。
 ただ、その熱意が強いだけに最後の方は力強い伝え方一辺倒となり、一番伝えたいことが見えにくくなっています。そこは注意すると良いでしょう。また、テーマとしてくにまもりとの繋がりを演説の中に残せると良いと感じました。
 向き合い乗り越えてきた力強さが光る演説でした。


7.「私たち若者に託された日本の未来」 横井 健次郎さん
 大学の先輩に連れられて訪れた靖国神社の遊就館には、先の戦争で自分と同じ年齢の青年が日本を背負い戦った記録が在った。彼らはどんな気持ちで戦ったのだろうか、私は地元関西、兵庫の鶉野資料館に赴き副館長の植松さんから話を聴き、多くの青年が、日本の未来を思いここで訓練していたことを知る。
 このことを友人に伝え、若者同士で当時の先人の想いを伝え合い、そしてまた友人たちを鶉野資料館に連れて行き、共に先人たちについて学ぶ機会を得た。植松さんの真剣な話に、この先人たちの想いを今度は自分たちが伝えていきたいと思った。そうすることで強い日本が在り続けるのだ。 


 激動の時代を生きた、先人に想いを寄せる響く演説でした。先人たちの想いを旨に自ら、そしてこれからの日本を律していこうという姿勢が伝わってきます。 
 先人たちの想いを受けて思い描く「強い日本」というものについては、是非言葉にして欲しいところ、ここを明確にすることで横井さんが先人から受け継いでいく肝の部分が見えてきます。また、熱があるだけに声が全般にわたり力強く、逆に大事なことが埋もれてしまいますのでそこは注意しましょう。
 繋げ、伝えることの大切さが見えてくる演説でした。 

8.「備えましょう」 宍戸 美優さん
 私が防災に興味を持ったのは東日本大震災、東日本大震災は10%の確率で起きると言われていた。東日本大震災の街は復興し、街はきれいになったが元には戻らない。震災時、南三陸町で最後まで防災無線で呼び掛け続け、自信は命を失ったが多くの人を助けた遠藤さんのこと知り、自分も声で人々を助ける仕事をしたいと思い、山梨県のラジオ局のアナウンサーとなる。
 防災ラジオ「備えましょう」で防災情報を伝え、防災士として訓練をする中で感じたことは”災害時は誰かが動かないと周りは動かない”ということ。災害時に大切なのは自分がまず動くことなのだ。私は伝え続ける、だから多くの人々に動き出して欲しい。 
 

 ご自身の学ばれ実感したことを社会に広げていかれ、そして知った有益な情報を多くの人に伝える、素晴らしい演説であったと思います。
 一方で、防災の大切さについては異論はないので、何故そうした考え、行動に至らないかにフォーカスすることでより聴衆が考え、意識を高める切掛けとなる演説になった様に感じました。 
 改めて防災への取り組みを振り返る機会を頂けた演説でした。


 以上、8名の演説でした。
 毎年2月11日に行われているこのくにまもり演説大会。日本という国の在り方をどう捉えるか、どの様にしていきたいか、何を後世に残したいかについて若者の主張を聴くことができる大会として毎年楽しみにしています。
 同時に今回の大会を聴いていて、それぞれが主張する国家の幸せ、国民の幸せ、目指すべき姿への掘り下げをよりしていくことで、日本の歩んでいく未来がより見えてくる様に思えます。そのためには現状の課題や問題を見つめることもそうですが、何故その様な状態になったかを捉える力、そして考えたことが国、国民の幸せにどの様につながるのかを想像する力を培う必要が有るのだろうと感じました。

結果の方は、下記と相成りました。入賞された皆様おめでとうございます。

優 勝:牛島 倫太郎さん
準優勝:宍戸 美優さん
第三位:平良 友依さん


入賞できなかった皆さんも個々の演説の構成や内容、技術に持ち味が有りました。今回の結果は、課題の喫緊性や迫りくる危機を見つめることが重視されたものと感じました。
是非多くの場所で演説で話されたことを伝えて頂きたいと思います。