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 バリで泊まったのは、初めての五つ星ホテル。
 バリのガイドブックを見ると、2、3万円の差なら、高いツアーで良いホテルに泊まった方が絶対にお得、とあったのにしたがった。帰国後、ある海外旅行好きの同僚に聞いたら、欧米へのツアーだと、その額で五つ星ホテルに泊まることはないだろうとのこと。人件費が安いということらしい。
 部屋も食事もとにかく豪華。豪華なばっかりでなく、料理がどれもこれも本当においしくて、「五つ星」というランク付けは伊達じゃないんだなーと思った。
 
 私が楽しんだのは、ホテルの野外ステージで日替わりで演じられるバリの芸能。ディナー付のショーで、一番興味のあった「ケチャ」の演じられる日を、インターネットでチェックしておいて、その晩は家族とテーブルを予約して、じっくり鑑賞した。ケチャは大勢の男性の声だけを「伴奏」にして演じられる芸能。ショーのために演出されていて、本来の儀式としての緊張感はないのだろうが、それでもすごい迫力だ。
 4、50人の半裸の男たち(子供もいる)が、両手をひろげ「ン!チャ!チャ!チャ!チャ!」とかけ声を波のうねりのように繰り返し、その両手が林立する中で華麗な舞踏がくりひろげられる。ステージの袖のあたりは通路になっていて、目隠しの木立越しにショーが眺められるので、毎日、通路にたって、ショーの大半を観ることができた。これも「五つ星」の大盤振る舞いということか?
 ある晩は、「レゴン」という、少女のみで演じられる舞踏の日で、楽屋入りする前に懸命に練習している華麗な衣装を身に纏った少女たちが、ステージの照明を背景にぼんやりと浮かび上がり、神秘的な一枚の絵のようだった。
 もっとも、プールは大小5つもあったのに、そのうちの一つ、ウォータースライダー(滑り台)のあるプールが、子供たちのお気に入りとなり、(飽きもせずに)ずっとそこで遊んでいた。親の方は、どちらか一方が、そのプールの前の寝いすでゴロンと横になっているという毎日。

 旅行の3日めは、知人のカナさんの案内で、運転手つきの車を一日借り切って、女房の好きな伝統工芸の見学できる村などを中心に見てまわった。その日の最後、カナさんが夕景がお勧めだという、ジンバランというビーチに行き、海沿いの海鮮レストランから見た夕陽の美しさは忘れられない。
 オーストラリアのビーチの、ほとんど「非人間的」とでも言うしかない壮大な光景とはまた違って、夕陽がしっとりと海に解けていくようなやわらかな日没だった。
 
 それにしても、運転手つきの車を一日借り切りというのは、何とも贅沢だが、これはカナさんの提案で、その方が安くてお得なのだそうだ。現に運転手さんの「日当」は、ガソリン代を含めて4000円(!)くらいだった。
 ところが翌日、あるショッピングモールで和食コーナーに行き、「わーい、ラーメンだ」と子供が叫んで、ラーメンやうどんを家族四人で食べた、その料金もまた、4000円くらいだったのである。その4000円ナリのレシートを見ながら、昨日の親切な運転手さんの、邪気のない笑顔を思い出して、何とも複雑な気持ちになってしまった。