ここ数年、急にメディアで目にするようになった「コト消費」。「モノが売れない時代」といわれて久しいなかで、急激に脚光を浴びている言葉です。ただし定義はあいまいで、使い方もバラバラ。猫も杓子も「コト消費」という状況で、様々な意味で使われているのが実情です。そもそも「コト消費」がどういう意味で用いられているのか、「コト消費」が流行になった背景に何があるのかをセールスプロモーション的視点から見る。
「コト消費」が跋扈している。モノが売れなくなり、これからはモノではなく、コトだという乱暴な議論も聞こえている。しかし、あらゆるモノ消費はコトが起点となっている。「着る」「食べる」「暮らす」には、衣料品や食品、生活用品が必要となる。そして、観劇やコンサートに着て行く服を買う、旅行に着ていくための洋服や荷物を運ぶカバン、ゴルフをするにはクラブが必要なように、体験するためには、関連するモノへの消費も発生する。
だから、今、小売(モノ)企業が取り組むべきことは「コト起点で発想し、品揃えの専門性を高めて、売場を構築すること。単にモノを売るだけではなく、情報を積極的に発信、体験の場を設けるなどして、需要を喚起し取り込んでいくこと」なのだ。商品やサービスの持つ機能的価値を消費するモノ消費、体験を対象としたコト消費を切り離して捉えるのではなく、関連付けてコト消費を確実にモノ消費につなげていくことが必要なわけだ。
ネットショップ(EC)市場の拡大が進行する中で、家電量販店に代表される商品を見て確認する「ショール-ミング」化などリアル店舗の役割が問われているが、コト消費を想定した新たな機能も問われている。そのヒントとなるのがテレビショッピングだ。QVC・SHOP CHANNEL・ショップジャパンなど、テレビを通じてモノを売るのは、まさしくモノ消費への対応だが、実は単なるモノ消費ではない。多くの視聴者は買う目的を持って視ているわけではなく、テレビショッピングの番組を視るという体験ありきでモノを購入しているのである。生放送では売れ行きが刻々と表示され、常に視聴者に語り掛け、買う気にさせる仕掛けが満載だ。テレビショッピングはまさに体験するコト消費そのもので、視聴者とのコミュニケーションをいかに取るかがポイントとなっている。コト消費における顧客との関係性の重要さを改めて教えてくれる存在。
ネットショッピング全盛の時代でしぶとく生き残るテレビショッピングの秘密はこの点にあり、モノが必要だから買うのではなく、テレビショッピングの番組を視たから買ってしまうというという性格が強い。テレビショッピングであれ、リアル店舗であれ、ネットであれ、体験する仕掛けづくりが求められている。コト消費への対応は新たなマーケティングの手法が問われることにもなり、新ビジネスを生み出すことにもつながる。そこで求められるのは単なる機能や価値の訴求ではなく、「共感」「交流」といったキーワード。価格も含めた真の「バリュー」を提供することが必要となる。
一方で、コト消費は「奪われる時間」とも言われ、時間を消費するといった意味合いもある。スポーツ、旅行、レジャー、映画鑑賞、観劇、コンサート、ホビーといった体験を通じて、時間を費やす「時間消費」だ。体験することにより一定の時間を過ごすことで、お金を使う行為はまさしくコト消費そのものである。こうしたコト消費に対して、ショッピングセンターなどは、複数の映画館で構成されるシネマコンプレックスの導入により対応しようとした動きはその典型であり、アミューズメントや飲食施設などを充実させることで滞在時間を延長し、消費に結び付けようと取り組みもその一環である。
もっぱら商品やサービスを使用もしくは消費、享受するのではなく、体験する「コト消費」が消費性向として台頭し、商品の所有に価値を見出す「モノ消費」との対比が消費シーンの構図として浮上してきた。だが、それはモノが売れなくなるのではない。モノとコトはある意味一体で、人間の営みにはモノは欠かせない。コト消費を時間消費の意味だけで考えるのは極めて危険だ。コト基点から考えてモノを売ることが必要とされている。
コト消費に惑わされることなく、モノを消費者に最適なカタチで提供する。モノをもっと売れる努力をするのが、コト消費への対応である。
余談ではあるが、アメリカでも言われてるコト消費の場合、金持ちのミレニアル世代がお金を使って他の世代とは異なる4つの「コト」として、1.体験は時間とともに良いものになる。2.体験は計画を必要とする。3.体験は他者を巻き込む。4.体験は身体的な活動を伴う。お金の専門家によると、体験にお金を使う方がその見返りは長続きし、中身のあるものになるという。
あれ?これってお金持ちの考え方としてるが、こんな「コト消費」を行える一般庶民が日本に居るか?
※ ミレニアル世代とはアメリカにおいて2000年代に成人・社会人となる世代を指します。