ユーハイム:創業者の悲哀&無情 | 硝子の中年のブログ

ユーハイム:創業者の悲哀&無情

 「バウムクーヘンとヒロシマ」という本を読み終えた。

発行は、くもん出版。

公文式で知られる教育産業のグループ傘下の出版社。

価格は1,540円。

本文は173ページ。

中学生向けくらいの図書。

  ドイツ人のカール・ユーハイムの苦悩の日々を綴った内容だが、時代の波浪に大きく翻弄された末に、神戸で命の営みを終える。

8/14、終戦の前日に永眠。

享年58歳。

中国の青島から日本へ。

そして広島、横浜、神戸と移り住んで、バウムクーヘンを主体とした洋菓子を作って、弟子も育てて広めた。

  その間に第一次世界大戦、関東大震災、太平洋戦争という、個人が抗うことのできない激動の、過酷な逆境を経ることになる。

彼の菓子作りの基盤は何度も失われて、うつ状態のような、精神を病む時期が一度だけではなかった。

捕虜としての抑留生活もあり、心の疾患は最期のときまで彼を安楽にはさせなかった。

  本の筋立ては現代の広島で小学生たちがバウムクーヘン作りの体験をするところから、時代を遡って昔と今が交差するような、当時の実情を話す、語り部のような展開にもなっている。

タイトルからも分かるように、原爆投下の惨状も淡々と記されている。

彼のバウムクーヘンは原爆ドームと名前が変わる前の、戦前の産業奨励館にも陳列販売されて、日本人にも大変好評だった。

彼らには全く未知の味だったはず。

この洋菓子は目から鱗が落ちたに違いない。

甘味は饅頭、団子、汁粉くらいしか口にしなかった、多くの日本人にとっては。

  カールにとっても満足な材料や器具が揃わず、試行錯誤の日々だった。

波乱万丈、紆余曲折などの熟語では表現することのできない、艱難辛苦というか、間欠的に極限状態のような経験に直面した一生と思える。

勿論、個人の感情の起伏や情緒不安定は、本人の資質や性格的な要素に起因することは間違いないが。

彼の受けた状況や条件で、気分が凹まない神経の持ち主は5%未満だろう。

  彼の想念は妻エリーゼに引き継がれて、その遺伝子が今も「ユーハイム」として老舗の洋菓子を提供している。

カールのパーソナルストーリーは概ね知っていたが。

過去に日テレの、著名人の生涯を活写したレギュラー番組「知ってるつもり」で紹介されたので。

当人の職人としての航路、その境遇に落涙を禁じ得なかった。

  プレスリーやモンローも紹介されていた。

脚光を浴びる、光と影の実録も心象に鋭く刺さる。

凡庸とは対極の人生の残照。

本は、たまたまインターネットで知って購入。

  これまでもブログに記してきたが、平和だからこそ、ケーキなどというデザートを口にすることができる。

21世紀も戦争の時代は変わらない。

人類という動物の普遍性かもしれない。

教訓を得ない人類は猿以下かもしれない。