ピアノという結界
一昨日のフジテレビの特番「TEPPENピアノ」は各組の出場者AとBが1回戦の課題曲と2回戦の自由パフォーマンスの合計で優勝を目指す。
しかし、課題曲は1組づつ異なる。
3回のミスタッチで即終了となりゼロ点。
例えば、1組目の課題曲はAdoの「うっせいわ」
これは二人とも終了でゼロ点。
1回戦は全て同じ曲でないと、評価基準として不公平。
有り得ない。
そもそも、超急速パッセージにおけるタッチの正確性を競っても、殆ど意味がない。
視聴者の100人中、2~3回のミスタッチを分かる人は1人くらいだろう。
また、課題曲が殆ど近年の新しい曲ばかりで、若者だけを対象にしたような楽曲ばかりで、普遍性に欠ける。
少なくとも、中年以上には親和性がない。
別に坂本九、ちあきなおみ、由紀さおり、梓みちよ、山本リンダまで遡らなくてもいいが。
いずれにしても、正確性ではなく、課題曲を自分の感性でアレンジして弾くことによって、どれだけ聴き手の心に響くことができるか、をジャッジすべき。
これであれば、組毎に別の曲でも不公平にはならない。
例えば、ディズニー「星に願いを」「いつか王子様が」サザンオールスターズ「いとしのエリー」山下達郎「クリスマスイブ」松任谷由実「ひこうき雲」アンジェラ・アキ「十五の手紙」AKB48「恋するフォーチュンクッキー」尾崎豊「15の夜」PUFFY「渚にまつわるエトセトラ」TRF「サバイバルダンス」徳永英明「壊れかけのレディオ」ゆず「夏色」いきものがかり「じょいふる」スコットランド民謡「アーニーローリー」ビートルズ「ブラックバード」スティービー・ワンダー「イズントシーラブリー」バン・マッコイ「アフリカンシンフォニー」ドーン「幸せの黄色いリボン」シルビー・バルタン「あなたのとりこ」デューク・エリントン「キャラバン」ベートーベン「月光」ショパン「別れの曲」ドヴュッシー「亜麻色の髪の乙女」童謡「毬と殿様」など、完全に評価が確立した、万人が知っている曲があるはず。
それから、出場者の中には速弾きと音圧が超絶技巧の証しであり、強力な武器だと勘違いしている人もいる。
その類いのテクニックは極めて表面的であり、説得力に欠ける。
まあ、彼らは若いからエネルギー全開が常に正解だと思っているのだろうが。
それはデリカシーに欠ける場合もあるし、演奏から曲の心象風景は見えない。
力技だけでは、聴き手の琴線には触れない。
アーティストに例えると、ジャズピアノの上原ひろみが該当する。
彼女も現在44歳になった。
中堅である。
私の知る範囲では彼女はスタンダードナンバーを殆ど演奏していない。
CDとしては1枚だけスタンダードだけを演奏したアルバムをリリースしているが。
オリジナル曲に彼女の真骨頂が、本領が見えるとも言えるが。
これは自己主張としては理解するが、先人の財産も顧みる作業をして欲しいと思う。
パワフルなタッチ、強烈な打鍵、力感だけでは聴き手には響かない。
緩急がない、単調なパフォーマンスとなる。
この番組からはアマチュアのピアニストの、そして日本の音楽畑の現在地が垣間見える。