・・・・・「327、暗い中、ヴィラまでの道をのぼっていくのは思いのほか困難だったが、ルイスがそばにいる限り怖いとは思わなかった。むしろ一種の冒険のようでスリルがあり、二人はよく笑い、子供のようにはしゃいだ。へいたんな道に出てからは急いで帰ろうとせず、話をしたり、立ち止まってキスをしたりしながらぶらぶらと歩いた。{別々にリスボンに帰るなんてばかげてるよ。僕の車で一緒に帰って、君のはステラとクルトに貸して用がすめばレンタカー会社に返しておいていただけばどうかい?}、{いいけど、それでもホテルのチェック・アウトはすませなきゃ。あなたはそれでリスボンに帰るのが遅くならない?}、{早く出れば心配ないさ。最初の客は11時の約束だしね。遅れたって待たせておけばいいさ}、{おやまあ、いつものあなたじゃない。皆はきっと、あなたが恋をしているんだと思うわよ}、{その推察は正に当たっているよ}。ルイスは彼女を抱き寄せた。{ああ、カリーナ、どれだけ君を愛しているか、どれだけ君を求めているかを早く証明したくてたまらないよ}、{私もよ。でも今夜はやめて、お願い。ステラとクルトがヴィラに泊まっているんだもの}、{そうだね。明日まで待って、どこかホテルを探そう。それまでどうやって仕事に集中するかが難問だけど。ああ、カリーナ、かわいい人、僕らはどうしてこんなに愚かだったんだろう。将来もし何か都合の悪いことが出てきたなら、どんなに小さいことでも話し合おう。いいね?}、{シン。でも英語で? それともポルトガル語で?}、{両方で。ポルトガル語のレッスンを続けていたのは正解だったね。ここに住んでも異邦人のような気持ちにならないですむ。どうしてそうしたのかい? ポルトガルに関することとは一切縁を切りたかったんじゃないのか?}、{わからないわ、本当のところは。心の底ではこうなることを望んでいたのかもしれないわね。だから母の説得にもあっさり応じたんでしょう。自分では気づいてなかったけど}。カリーナは急に不安になって彼を見上げた。{今度こそうまくいくわよね? そうなるって約束して}、{約束するよ。僕たちはどんなことがあっても離れない}。ルイスはカリーナの手を取って口づけした。二人は二度目のハネムーンの予定や、リスボンのどこに住むかについて話し合いながらゆっくりと歩いた。まわりではこおろぎの鳴き声が崖の下の浜辺に寄せる波音にまじって聞こえていたが、お互いのことしか頭にない二人には何も耳に入らなかったし、夜がしらじらと明け始めていることにも気づかなかった。ヴィラに着いて腕時計を見たルイスが驚いて言った。{なんとまあ、もう四時半だよ}、{今からベッドに入っても仕方がないわね}、{そうでもない、少しは眠らなければ。リスボンまで長時間運転しなきゃならないんだから}、{でも交代で運転すればいいわ}、{そうだったな。人生を共有していることを一時忘れえてたよ}。ルイスはほほえんでカリーナの手を取った。{ベッドも共有するのよ}、{今、共有すれば僕たちどちらも一睡もできない}、{本当ね。じゃ、おやすみなさい、ルイス}、{僕の夢を見てくれ}。ルイスは我慢しきれないようにカリーナを抱き寄せたが、やがてかすれ声で言った。{さあ、ベッドに行きたまえ、僕が自制心をうしなう前に}。」・・・・・つづく・・・・・→→→