空よりも濃い青い海、どこまでも広がる山。
なんて小さい町なんだろう。
この町から出て行きたいと、何度思ったことだろう。
ここには何もない。
マクドナルドもミスタ—ド—ナッツもない。
イオンもロ—ソンもない。
何もない。
観光客だってめったに来ないし、高校に至っては、1校しかない。
この町で誇れる事は……たったひとつだけ。
そんな土地で、私達は生まれて育ってきたんだ。
強い日差しに照らされて、アスファルトがゆらめく。
首の後ろには既に嫌な汗が滲んでいる。
今日の最高気温は30度になるらしい。
最悪だ。
こんな日にまで学校に行かなくちゃいけないなんて…!
『受験生に夏休みなんて存在しない』
という、先生の言葉を痛感する。
朝早くから制服に着替えて、いつもの通学路を、いつもの数百倍重い足取りで歩く。
そもそも学校が遠い。
家がある商店街から、海沿いの道を通り抜け、町の後方にそびえたつ山の入り口まで、約15分。
学校は更に登った所にある所要時間は人によるけれど、私の場合10分は余裕でかかる。
こんな通学路、寄り道をしないで来いという方が無理な話だと思う。
だから、山を半分くらい登った所にある、今にも倒れそうな、この木造の建物は私たちにとって絶好の寄り道場所なんだ。
建物の白いトタンの看板には
『駄菓子屋』と、
綺麗な筆字で書かれていた。
少しカビくさい店内には、
私達が生まれるずっと前から、
そこに存在してたであろうレトロな扇風機が、
天井から釣り下げられ、懸命に生ぬるい風を送っている。
その横にはテレビが置かれていて、
テレビの中では、朝のニュースを
アナウンサーが読み上げていた。
店内にはお菓子や玩具が所狭しと並べられている。
店先にある白い長方形の冷凍庫の中では、
数十種の棒アイスが自分の出番を
今か今かと待ちわびていた。
そんなアイスの前では、
今日も幼なじみの浦添陸(うらぞえりく)
が仁王立ちでこちらを睨みつけている。
私、山岡志津(やまおかしづ)も負けじと睨み返す。
「今日こそは俺が勝つからな」
「はっ、よく言うわ」
私が手の指をぼきぼき鳴らすと、
陸もクロスさせて握った手を光にかざして覗き込んだ。
子供の頃からこの占いを使っているけど、勝率は……言うまでもない。
山の上からHRの開始を告げる鐘が町中に鳴り響く。
「志津も陸も、こんなんじゃまた遅刻だわねぇ」
ふたりの少し後ろの方で木の椅子に
座ったばあちゃんがウチワをパタパタさせながら呟いた。
ゆるいおだんごから垂れた白髪が、風で揺れて光っている。