アクシデント③(完) |  ◎涼のどぶろぐ◎←つながり日記←

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風景というか心象というか、
好きなページを開き、
ゆっくりたどって、味わうような
掌短編みたいな日記。

12日の夜の本番中
宙づりのなべちゃんのワイヤーが切れた。

翻弄する楽屋。そのときの話。

最初から  「アクシデント① 」 ←押ス








姫「ねえ、何でお母さんは治せなかったの」

清十郎「なおせないことも、あるんだよ」



死んだ父親と姫との回想。


刻一刻と問題の場面は近づいてくる。
ワイヤーが使えない。
音響さんや照明さんと打ち合わせることができない。
ほぼ全員総出でやらなくちゃいけない。

練習なし、一発勝負。


物語は後半へと向かう。

田村のおばあちゃん「フガフガフガ(ここなくなったら、わしらドコ行ったらええんじゃ)」
サダヒロ「やっと信頼できる先生を見つけたんです」
さとみ「清十郎(姫の父)寂しがってるよ!」

接骨院をつぶされまいとする周辺住民が病室に押し寄せる。

「ちょっとみなさん、落ちついてください」


仲に割って入る山田医療器具の鈴本とOBC社員の金矢。
そして姫は総合巨大施設への移転を受諾する契約書にサインをしようとする。

住民たちとの揉み合い。


「まずい!この中に、タムーラがいる!!」

なべちゃんの鼻が、嗅ぎつける。

えっ!!

僕「タイムショッキング!」
呪文で時間を止めて、検証する。

なべちゃん「とまっているフリをしているのが、タムーラよ」

コヒルイマキ「でも、みんなそう見えるんですが」
(そりゃそうだ舞台の芝居なんだから)

魔法使い三人は「タムラ」という名前から田村のおばちゃんが怪しいと結論(安易)。

よし!と
住民たちの時間を止めたまま退避させ
「象印(ぞうじるし)魔法陣」の結界をはりタムーラを追い詰める。

僕「出てこいタムーラ」

が、違った。
田村おあばちゃんではなかったのだ。
そして他の住民でもない。


じつは、僕に取り憑いている。


僕「私がタムーラよ!!」
二人+姫「ギャー」
グルグル追いかけっこ。

操られているタキシタ(僕)の意識が目覚める。

僕「お前は誰だ」「話しかけるな」「もしかしてタムーラ?」「うるせー!」

「もしかして取り憑かれてるのー!?」「だまれー」

…落語的一人芝居ネタ。


僕「あーめんどくさい!」
(一人二役だから、ね)

そして、おばあちゃんに乗り移る!

田村「私がタムーラよ!」
住民「腰、のびたー」
(注・田村のおばあちゃんはずっと腰が曲がっていたのだ)

せまい接骨院の中を、今度は全員でグルグル追いかけっこ。


全員「ワー!ぎゃー!タスケテー!!」



さて、これからだ。


憑かれ(?)果てた僕は舞台の端で倒れている。
残念だが目を閉じて、芝居を伺っているしかない。
みんなの声だけが聞こえる。

例のシーンが、もうすぐだ。


コヒルイマキ「元気はつらつピチピチビーム!」


(うまくいくかな)



みんなも、同じ気持ちだろう。


なべちゃん「今は、酒やけビーム!」
タムーラ「ぱッつんぱッつんボンバー」

効果音、ぼよーん。

全「わー」
近づいてくる、その場面。


そして
ついに、クライマックス。


魔物タムーラが、住民の一人を魔法で操る

スズキ「わーカラダが勝手に~」


ここでワイヤーが降りてきて、ザイルにカラビナを引っ掛けて、

タムーラが中吊りになる場面だ。



普段なら


スズキが「カラダが勝手に~」と
タムーラの背中に器具をとりつけ

「わー」といいながら

舞台からはけ(魔法で吹き飛ばされているテイ)、

舞台裏からワイヤーをひっぱる。

しかし

空中に浮かせようとするのだが、浮かない。
重くて、持ち上がらないのだ。

「警察呼んできます」と言って

それをみていた役者がはける

やっぱり、持ち上がらない


「ぼくも警察呼んできます!」
「私も」
次から次へと男手が舞台から退場していき、裏のワイヤーを引っ張りにいくのだ。

タムーラは、そのたびに飛べないので微妙に悲しい顔だ。
舞台上には困惑した姫と魔法使いを残したまま。


このネタ

「警察を呼ぶ」

というセリフがミソだ。舞台はこういうルールで動いている。

「ワイヤーを引っ張ってきます」じゃなく、
物語(警察呼んでくる)と舞台上(持ち上がらない)の決まりをちゃんと演ると、

その場に舞台ならではの

「現実と仮想の不思議なリアル」

が生まれるのだ。


あげくの果てに、舞台ソデの奥から
「女子でもいいので警察呼ぶの手伝ってください!!」
女子たち「はい!」


いやはやバカバカしい。


結局、みんなが力を合わせて

タムーラをワイヤーで持ち上げるのだ(敵なのに)。


「せーの」という

舞台ソデ階段下からの役者たち奥からの掛け声とともに、

タムーラがついに空中に持ち上がる!

得意満面のタムーラが羽ばたくのを見上げながら

手を叩き喜ぶ魔法使いと姫。
(よかったー)
お客さんも思わず拍手!

まさに
全米も涙するクライマックスだ!




と、



しかし、

これが、今回はできない。



タムーラが合図をする。


スズキ「わーカラダが勝手に~」

ここまでは、いつものセリフ。

しかし
ワイヤーは降りてこないから、

鈴本(スズキ)「みずから」がタムーラを持ち上げる。

スズキ「うーん」
重くて持ち上がらない。

たぶんお客さんも

この時点では「?」だ


ここからは音響さんとのアドリブが加わる。

ワイヤーが切れたことは分かっている。
ならばどうするか。

タムーラの合図で魔法音を鳴らすこと。
そして照明さんも合わせて怪しい光を煽(あお)る。
もちろん打ち合わせ無しで、合わせている。


ここでいうアドリブとは、好き勝手にやる自由ではない。

そうだ。
僕らは、向かうべき場所を知っている。

それは「今やれることを、ベストを尽くして、やる」 だ。

そして、
失敗は許されない。


また合図。効果音と照明の煽り。

でたとこ勝負のセッション


「カラダが勝手に~」


男二人が、魔法で操られながら手を加える。
しかしまだ、男三人でも重くて持ち上がらないのだ。

ここまでは、
うまくいっている。


さあどうなる。


悔しそうなタムーラが怒りの形相で(と、僕は倒れているからセリフの感じで想像している)

また、合図。


再び音響さんが魔法音。
その力を込めた効果音と共に、今度は魔法使いと姫を除いた、

今度は、全員が「わー」と必死の叫び声を上げ、

みんなでタムーラを取り囲む。

「せーの」と

掛け声をかけた。


次の瞬間、


わーしょいッ、わーしょいッ


持ち上がった!

男共が腕を組み合わせ、騎馬戦の要領でタムーラを担ぐ。


御神輿(おみこし)みたいに、
まるで、祭りだ。


わーっしょい!、わーっしょい!


これには
ワイヤーが切れたことを心配していた、

ファンの方々も驚き、そしてホッとしたことだろう。


わーっしょいっ!!

わーっしょい!!


なんだか、わからないが、賑わっている。
まわりの役者たちも、さらに盛り上げる。
声高らかに、地回りしながら、

頂上のタムーラも上機嫌だ!(たぶん)


お客さんからは、自然と拍手が出ていた。
(こういう空間を演劇用語で言えば祝祭の場としての演劇というのかもしれない笑)

満足なタムーラが丁寧に降ろされ、

みんなは魔法で舞台外に、弾き出される。

全員「わー」
(なんかシュールな場面)



渾身のアドリブだ。


劇場いっぱいに不安と安心と

異常な役者たちの興奮が

渦巻いていたにちがいない。



最後の去りぎわ

スズキが、さらに付け加える。


「ワイヤーさえ、切れなければー!!」




安堵のような、微笑みのような喝采が客席からする。



問題のシーンが、終わった。
あとは終演に向かって、着実に積み上げていこう。








忘れられない舞台が、
また一つ増えた。



翌日の本番からは、さらにチェックと改善をし、もうワイヤーが緩むことも切れることもなく、

大きな事故もなく千秋楽を迎えることができた。

なべちゃんの足も酷くはならずに本番を終えた。


毎日行われる公演は、小さな1コマなのかもしれない。

でも、一回一回の本番が、僕らにとってもお客さんにとっても

かけがえがないことに、変わりはない。







最後に




僕の心の中にだけ、残っていることが、ある。

それは
その日出演したメンバーの

今は、
もう削除されてしまった
Twitterのつぶやきだ。



一言だけ、こうあった。





「いろいろありました。なんとか乗り越えることができました。

このメンバーでやれてよかった」








と。






あの時、あの楽屋でおこなわれた打ち合わせと

本番のセッションの結果だろう。







それは、きっと、


一人の言葉ではないはずだ。






















(完)












最後までありがとうございました。涼












【なべちゃん記事まとめ】

この なべちゃんが泣けた記事!!
麺(めんはなし)話 」 (ブログネタ金星記事)