しゃぽん、くわるくわる
気のせいかな、と思う。
電車は真昼のホームからトンネルへと滑りだした。
始発駅から乗った地下鉄はこの時間、車内に人も少ない。
じょあっさ、しゃぽり
最初の駅で止まる。
その音は座ったシートのクッションからしているような気がした。まるでウォーターベッドに腰掛けたような。
一番後ろの車両は、誰も掴まっていない吊革だけが揺れている。
しゃぽんりと、
また。
しかし一瞬だ。泡立つような波が返すような音は、また沈黙して、次の駅に向かう。
しばし耳を澄ましてみるが、いつものようにレールを唸り軋ませ暗い坑道を進む地下鉄の繰り返ししか聞こえない。
気のせいか…
いや幻聴にしては、ハッキリしすぎていないか。
どこから、この水の音がするんだろう。
僕の座席の反対側には、ビジネススーツの女性が
脚を組み英字新聞を広げている。
駅でもない窓をちょくちょく向き直す僕をチラリと見てまた、戻した。
少し恥ずかしくなった。
ケシテ、アナタヲ見テイル訳デハ、ナイノデス。
真っ暗な車窓を地下鉄は進んでいる。
ホラまた聞こえた。
それは駅に停車するたび、発車してまもなく。
揺れる水面が泡を立て、まじわりぶつかるような音が耳元でする。
窓枠からだ。
昨日の集中豪雨の雨水が隙間に入りアルミサッシの密閉した枠の中に閉じこめられている。
そうか地下鉄は、JRの常磐線につながっている。あの辺もきっと凄い雨が降った。
でもなぜか、この窓枠の中だけ雨水が溜まったままなのだ。
そうかそうかと納得しながらも、僕は不思議な気分になってくる。
繰り返す列車のリズムと波がうねる泡の音は、まるで水の中を走る特急電車だ。
しゃぽりガガンタタン
くわるくわる
トトトト、トン
太陽を知らない
真っ黒な海の中を
白く細長い魚や
透明な生き物が
通り過ぎ
まっくらな深海を滑走する。
目を閉じて、そのスピードに揺られてみる。
しゅーしゅー。
自動扉が開き、英字新聞をたたんだ女性が、ホームへ降りた。
そっちを向きなから、
僕の耳は窓枠からする深海の音を聞いている。
あともう少し。
次の次で、この旅を終わらせて地上に出なければいけないか。
(…旅って、)
とか思いつつ。
また、
しゃぽん。タタタン。
うねる水音をさせて
地下鉄は走り出した。
本日もご訪問ありがとうございます。
詩へのたくさんのコメント、感謝してます。涼
<電車と街小旅>