『時たま山伏、いつもは音楽制作者』

『時たま山伏、いつもは音楽制作者』

クサリ一本で垂直な崖を登ったり、畳一畳もない岩塔の上で日がな過ごしたりする、山伏に憧れる音楽制作者のブログ。

駅から自宅に帰る途中の遊歩道脇に小さなライブハウスがある。生音とPAをミックスして聴かせるような小さな小屋。隣接してバーがある。ライブチャージ払わなくても一杯飲めるから何度か立ち寄ったことがある。昨日も駅からの帰り、ちょっと飲みたいなと思ってふらっと立ち寄った。このバー、かかっている曲のセレクトが僕には心地いい。オーナーが多分同世代だからなのか。特定のジャンルにこだわらず、メインストリーム以外の新旧問わない曲をかけている。

昨夜は、カーティス・メイフィールドの「Move on up」がかかっていた。よく聞くと女性のボーカルだった。



カバーだけど、初めて聴くテイクだった。オーナーに尋ねてみるとエゴラッピンのテイクだと。エゴラッピン、クラブっぽくてサブカル感が自分には刺さらなくて距離を置いていたけど、歌が抜群に良かった。確か大阪のユニットだったと記憶している。

大阪の音楽シーンのことは詳しくないし、クラブミュージックにもさして明るいわけではないけど、大阪のラジオ局、FM802のスタッフに共通する頭柔らかくフットワーク軽くチャレンジする感じには何かを生む雰囲気が充満していたのは感じていた。

聞かず嫌いなとこはあったけど、こんなんじゃだめだな。いい曲はジャンルの外にある、なんて当たり前のことを改めて思い知った夜だった。

僕がなかなか業界用語や慣習になれなかったのは気後れがあったからなのかもしれない、と今は思う。

最初に配属された部署はA&R部というところ。アーティスト&レパートリー、アーティストの発掘・育成や楽曲企画・制作をやるセクション。セクションのチーフは高中正義さんのチーフマネージャーだった方とRCサクセションのディレクターだったお二方。同僚にはアリスのバックメンバーだった方とか、レピッシュのディレクターだったり、バリキャリの女性マネージャー、谷原章介さん似のイケてるディレクターがいたりとか。ある夕方、事務所に戻ってくると、僕の座っているテーブルの端で作業に勤しむ華やかな女性がいた。見覚えがあった。ヤンギで何度も見ていた。高中正義バンドのキーボード、小林泉美さん。ロンドン滞在時の経費精算をしていた。先輩にコーヒー出してやれと言われ持っていくと、初顔の僕に「いろいろ大変だけど続けてね、いいことあるから」と声をかけてくださった。



どんな契約だったのか知る由もなかったが、高中バンドを抜けてだいぶ経っても縁を保っているんだなと、アーティストを大切にする評判通りの会社だと、当時思った。この先、自分はこの環境でやっていけるんだろうか?コステロベストだぜ、とかアンディ・サマーズのバッキングはいいよなとかニューウェイブにかぶれていただけの何者でもない自分は環境に完全に圧倒されてなぜか気後れしてしまっていた。ちゃんとした会社に就職した方がいいと心配してくれたミュージシャンもいた。

今じゃそんなこと、当時のかけらもなく、見た知った顔があれば、たとえ大御所がいてもズケズケとスタジオに入って行って「○○、最近どうなのよ」などと図太く振る舞う自分を当時は全くイメージできなかった。メンタルの図太さを手に入れただけでなく、フィジカルもずいぶん図太くなったが。

NAONのYAON開催のニュースを見て思い出したこと。

業界の意味不明な慣習や用語になかなか慣れなかった。車に上司と乗っていて、渋滞にハマった時に上司から「これはジーコーか?コージーか?」と聞かれた。あたりの様子から判断するに工事の車線規制ぽかったので返事をしようとしたが、すぐに言葉が口をつかなかった。工事だから、ジーコーかと整理し直して答えた。とにかくめんどくさかった思い出がある。



僕ら世代ではもうそんな業界言葉を使う人などいなくて、一回り上くらいの業界どっぷりの方々が使っていたように思う。変な慣習もあった。たまに局などにいくと、プロデューサーの人がニヤニヤして「○○ちゃん、どうなのよ」と近づいてきて肩などを揉んでくる。公私共に絶好調でもまぁぼちぼちですと答えることがフツウだった。

局とかだと結構強烈で「ロイシーのキーガがいてよー…」とか、ロイクーでなく、ロイシーね。まぁ確かにギョーカイ風にひっくり返せばそうなるんだがー、って無理矢理感のある言葉がいちいちめんどくさかった。同僚のセクションのチーフは、「ソリンガ」と言ったそうだ。これには、さすがに爆笑。全然ひっくり返ってねぇじゃんって。ただ響きから何を指しているのかはわかった。スーガーとか言うのが正しいんだろうかなどと同期の仲間内でなんとなく確認しあった記憶がある。

そーくーとかただただ恥ずかしかった。何となくわかっちゃうし、飲食業界などの○○番行ってきますとかのがいいじゃんて思っても、やっぱりそーくーしてきますとか言ってた。