『時たま山伏、いつもは音楽制作者』

『時たま山伏、いつもは音楽制作者』

クサリ一本で垂直な崖を登ったり、畳一畳もない岩塔の上で日がな過ごしたりする、山伏に憧れる音楽制作者のブログ。

当時、テレビ局の倉庫には、膨大な「往年のライブ映像」が眠ったままになっていた。 二次利用の権利処理が複雑なため、細々と再放送されるに留まっていたその宝の山に、TVKのレジェンド・住友利行さんが強烈な光を当てた。
「ウチのアーカイブを使って、ライブDVDの商品化をやらないか?」


差し出された企画の凄まじさ、そこには日本のバンドブームの真っただ中、一番日本のバンドシーンが熱かった時代の映像がゴロゴロと眠っていたのだ。
そこから、商品化に向けての準備が始まった。 各アーティストの膨大なテープの詳細の調査、権利処理のための利害関係者の確認、住友さんの思いに応えるラインナップのコンセプトを練り上げていく。 

 

単に映像を売るのではない。アーティストの『生きた歴史』をパッケージにするのだからこそ、所属事務所やアーティスト本人たちとも完全に膝を突き合わせ、100%の信頼関係のもとで制作を進めた。同時にエイベックス・ディストリビューションにも営業体制の枠組みを準備してもらった。


記念すべき第1弾は、ジュンスカ(JUN  SKY WALKER(S))と、スターダスト☆レビュー。
この熱いパッケージを、全国のファンへ届けるために動いてくれたのが、エイベックス・ディストリビューションのセールススタッフたちだった。自社発売商品と同じ熱量で販売店へとプロモーションしてくれたおかげで、このシリーズは爆発的な売上をあげ、話題を呼び、のちに業界のスタンダードとなる「過去のアーカイブ商品化」の文字通り先駆けとなった。


リリースしたタイトルは合計約60タイトル。洋楽の『We Are The World』で世間を驚かせ、邦楽の『ライブ帝国』で日本のロックの魂を永遠の形にする。 傷だらけで集まったあの「年齢層高めの最強チーム」は、いつの間にか、誰も成し遂げられなかった新しい音楽の未来を見ていた。

 

We Are The World』のDVDリリースは、日本の音楽業界、そしてネット界隈を賑わせた。

リリース日にはプレス発表を行った。オリコンが大きく取り上げ、さらにはあの『Yahoo!』の検索トップにもランキングされた。話題が話題を呼ぶというような感じを肌で感じた。

そんななか、FM東京の午前中の生番組から、一本の取材依頼が舞い込んできた。
「ぜひ、生放送でインタビューをさせてほしい」

驚いたことに、オファーの相手はタレントではなく、制作ディレクターである僕だった。裏方の人間が生番組の電話インタビューに引っ張り出されるなんて、極めて異例のことではないかと思った。受話器を握りしめながら、僕はあらためて、自分が手掛けた『We Are The World』というコンテンツが持つ、圧倒的な破壊力を思い知らされていた。

この時、僕たちが世界基準の布陣で勝ち取った「本物の権利」の重みを、数年後、さらに大きな歴史の特異点で実感することになる。

『We Are The World』の特大の成功の裏には、僕たちの思想を100%理解し、背中を押してくれる強力な『流通の戦友たち』がいた。

僕たちのDVDを全国の店頭へと届けてくれていたのは、エイベックスの販売会社である『エイベックス・ディストリビューション』。この会社を率いていたのは、元ポリドールの営業本部長。ここにクラウンレコードの精鋭部隊がいるという組織だった。
キティの生い立ちを知る彼らは、僕たちの中にある『キティ・イズム』を、言葉にしなくとも深く理解してくれている温かい人たちばかりだった。

当時、エイベックスといえば邦楽の流通において圧倒的な強さを誇っていた。
「せっかくこの強力な販売網があるんだ。僕たちの手で、何か仕掛けられないか……」
社内にそんな新しい挑戦への空気が流れていた。
そんな時に、僕たちのオフィスに、一人の男性が訪ねてきた。
TVKの住友利行さん。

音楽を愛し、泥臭いバンドマンたちを愛し、「音楽番組なら、TVK(テレビ神奈川)」という、日本のロックシーンにおける絶対的な聖地を創業期から創り上げてきた、伝説のプロデューサーだ。

商業主義に魂を売らず、本物のアーティストを世に送り出すことに命を懸けてきた住友さんの佇まいは、僕たちがずっと大切にしてきたキティの血の匂いと、完全に一致していた。

洋楽の世界遺産を掘り当てた僕たちのチーム、キティのイズムを知り尽くした流通部隊、そして『音楽ならtvk』のレジェンド。
この奇跡的な出会いが、冷めやらぬ僕たちの新会社に、またしても誰も見たことのない、新時代の邦楽コンテンツという巨大な嵐を巻き起こしていくことになる。

 

第13章:世界遺産。新会社を震わせた『We Are The World』の奇跡

 

「立ち上げは、どこまでも派手に行くべきだ」
レイコーポレーションのデジタルコンテンツ部署のチーフであり、元MBS(毎日放送)の名物ディレクターでもあった小田原雅文さんは、鋭い眼差しでそう主張した。

幕開けを飾るリリースコンテンツには、業界全体を震撼させるほどの圧倒的なインパクトが必要だった。その至上命題を背負い、アレックスさんは世界中を駆け回った。

そして、アレックスさんはとあるアメリカLAのロイヤーの事務所にたどり着く。財団関係の権利を管理している小さな事務所で、とてつもない財宝を掘り当てた。

あの『We Are The World』の制作ドキュメンタリーと、ミュージックビデオの映像の権利だった。

マイケル・ジャクソン、スティーヴィー・ワンダー、ボブ・ディラン……世界の音楽史を創ってきた最高峰のスターたちが一堂に会した、あの一大世紀のチャリティプロジェクト。

 

 

通常、これほどのビッグネームが揃った映像作品は、出演者たちの肖像権や複雑な著作権が絡み合い、日本の小さな新会社が太刀打ちできるようなものではない。しかし、これは元々がチャリティ映像ですべての権利関係は最初から奇跡的にクリアされており、しかもすでに一次使用で製作費は完全にリクープされていたのだ。

 

 

 

 

結果、提示されたのは常識的な印税率、アドバンス(前払金)も常識的、僕たちにとっては信じられないほどの破格の条件だった。

苦い失敗を経て、僕たちが揃えた最高峰の頭脳と世界基準の布陣。その執念に、音楽の神様が微笑んだとしか思えなかった。まさに、天から降ってきたような幸運。

かつて「自分には派手な個性がない」と居酒屋の片隅で悩んでいた僕の目の前に、音楽の歴史そのものである『We Are The World』のマスターテープが、新会社の最初の看板として厳然と横たわっていたのだった。