私は弁護士になって半年後の平成24年6月から,28年12月まで約4年半の間,交通事故の被害者側の民事事件をほとんど専門的にしてきました。

そのため,他の分野についての経験が相当乏しかったのは事実ですが,逆に特定分野に限ってはおそらく200件以上を経験し,しかも相当困難なものでも事実上一人でこなすような体験も少なからずありました。

 

このような経験を通じて,自分でも良かったと思うことは,次のようなことです。

①人身損害の賠償に関するケースを多数経験できたこと

 交通事故を専門にすると,人身損害に関する入通院慰謝料,後遺障害,逸失利益といった問題を日常的に目にすることになります。

 そして,交通事故事案解決の準則は,基本的に人身損害に関する事案全般にも適用されます。そこで,一般の傷害事件,労災事案,医療事故,学校事故などにおいて人身損害が発生した場合,どの程度の金銭的評価がされるか,どのような事情が賠償額認定に当たってどの程度考慮されるかについても認識・予測可能になりますので,人身事故全般に強くなることができたと思います。

 実際,傷害事件の被害者や,飲食店での事故の被害者の示談交渉を担当したこともあり,そこでも交通事故の準則を使いこなすことで,事案をスムーズに進めることができました。

②大型案件を,登録後日が浅い段階で相当数こなしたこと

 数千万円の単位になるような事案を,登録後半年や1年の段階で,一人でこなしたことも少なからずあります。今思えば恐ろしいことも多々ありますが,そのような経験は私に自信と,チャレンジする意欲を与えてくれたと思います。

前回お話しましたとおり、物件事故報告書は非常に簡単な、そしてそれゆえ必ずしも事故状況を正確に把握できるとは言い難いものであることが少なくないのですが、裁判所は事故状況を認定する際、相当重視するようです。
例えば、双方の言い分が異なり、車両などの損傷の状況から、物件事故報告書どおりの事故状況であった可能性も、そうでない可能性もあるという場合(≒報告書と明らかに矛盾するような事故状況だという確定的な心証がない限り)、報告書どおりの事故状況であったと認定することが多いというのが私の実感です。

このような現実のため、簡単な報告書であっても、作られてしまえば後からひっくり返すのは非常に困難なのです。作成段階から、いい加減にしてはいけないというのは、そういうことがあるためです。
交通事故において、人身事故扱いにならないものは、物件事故(物損事故)として処理されます。
そして、警察が作成する資料も、人身事故の場合と比較して非常に簡単なものにとどまります。人身事故の場合は、かなり詳細な実況見分調書が作成され、事故現場や事故車両などの写真撮影も行われますが、物件事故の場合、「物件事故報告書」という概略図が一枚書かれるだけなのが通例です。
この物件事故報告書を、私も何度か目にしたことがありますが、事故に至る状況、両当事者の位置関係、衝突の部位など、正確に把握できるとは考えがたいものが多いです。事故があったという事実を一応記録しておくという意味合いのものでしょうか。

そのため、物件事故扱いになっている事案で事故状況、過失割合が争いになった場合、非常にこじれることが多いのです。決定的な証拠が残らないためです。
ただ、裁判所が認定する場合、やはり物件事故報告書の図面をかなり重視するように私には思われます。

このような現状にかんがみると、①少しでも負傷の可能性があれば人身事故として届ける、②物件事故の場合でも、警察官には事故状況を正確に伝え、誤りない図面を作成してもらう、③争いになった場合に備え、弁護士費用を出してもらえるような保険に加入しておく、といったことが大事なのではないかと思います。
先日紹介しました強制わいせつ罪の判例変更について、注目すべき点があります。
①犯人の性的な目的を同罪の成立要件とした昭和45年判例が出された時点で、すでに最高裁において3対2に分かれていたこと、②学説でも、性的目的不要説が有力であったことです。例えば、後に最高裁判事にもなられた団藤重光教授は、被害者の性的自由を重視すれば、犯人の性的な目的は必要とすべきでない旨論じ、最高裁の反対意見を支持されています。
そして、その後の下級審にも、性的目的不要説に立つものがあり、ついにこの度の判例変更に至ったのです。

最高裁でも意見が分かれる、学説に反対意見が有力といった事情は、判例変更が行われる論点においてしばしば見られるものです。
法の動向、変化を知る上で必要不可欠な観点だと思われます。

『交通事故判例百選第5版』のはしがきで新見教授が,「被害者を救済すべしとの要請による既存の準則に対する弛まざる挑戦」が行われていると言われています。

私もそのようなことができているか,心もとない限りですが,「既存の準則」の中で現在疑問に思っているものはいくつかあります。

例えば,①14級9号の大半が,逸失利益5年以下とされていること,②それにもかかわらず,1回14級9号が認定されれば,同一部位・同一症状については,その後5年以上経過しても14級9号は認定されないこと,③後遺障害等級表に列挙されたものに含まれない症状は,原則として等級認定せず,したがって逸失利益や後遺症慰謝料は認められないこと,④過失割合が,類型別に機械的な認定がされがちであること,などです。

 

本当は困っているのに,その救済から漏れてしまう被害者は一定数おられます。それが,硬直化した枠組みの影響もあるのだとすれば,それを時代に合ったものに変えていくため,折に触れて見直していく必要はあるでしょう。

社会が変われば,必要とされる職業能力も社会生活の実態も変化します。それゆえ,「障害」「後遺症」などと評価される症状も,それによる支障の程度も同じではありません。

また,交通環境の変化に伴い,運転者・歩行者に求められる注意義務の内容も変わっていくことは十分ありえます。

 

このように考えると,従来の枠組みをいわば万古不易のものとして使用するのは必ずしも当を得たことではないことが分かると思います。