西郷南州の西南の役における死に思い及ぶと、西郷の生涯が再び陽明学の不思議な反知性主義と行動主義によって貫かれていることにわれわれは気がつく。西郷の「手抄言志録」によれば、その第二十一には、死を恐れるのはうまれてからのちに生ずる情であって、肉体があればこそ死を恐れるの心が生じる。そして死を恐れないのは生れる前の性質であって、肉体を離れて初めてこの死の性質をみることができる。したがって、人は死を恐れるという気持のうちに死を恐れないという真理を発見しなければならない。それは人間がその生前の本性に帰ることである、という意味のことをいっている。
三島由紀夫『行動学入門』