一連の日大アメフトの件。

 

今だにネット上では内田前監督=極悪人というレッテル貼りが

衰えることを知りません。

 

思うに、「日大はけしからん」という意見を書くと、

ものすごく賛同を得られる(数字がとれる)ということも、

そのような発信が減っていかない原因なのでしょう。

 

 

私は、関西学院のアメフト部のOBです。

ですから、この件を初めて知ったのは、

実際に試合を見ていた同期達のグループラインでした。

 

試合のあった夜、結果に関するやりとりのあと、

「それにしても、ひどい反則やったね」という

書き込みがひとつあっただけでした。

 

今思えば、恐らく、試合の最初のシリーズで起きた

「3度連続のファウル~退場」という珍事に対するコメントだったのでしょう。

 

私は、アメフトの試合の中ではときどきある、

ちょっと激しレイトヒットがあったのかな、と思っていましたが、

怪我人が出たりしていればもっと話題になるので、

大したことないのだと思っていたし、

誰もそのことについて、それ以上言及しませんでした。

 

 

数日後、OB会から回ってくるメールを読んで、驚きました。

日大の反則行為に対し抗議文を送り、その返答の内容次第では、

以後、定期戦を中止する、とあったからです。

 

YouTubeを検索して、初めて最初の反則シーンを見ました。

 

正直、愕然としました。

しかし、すぐに反応しないようにしました。

一体何が起きたのか、なぜこうなったのか、よくわからなかったからです。

 

アメリカンフットボールでは、選手が勝手な動きをすることはありません。

ましてや、こんな考えられないプレーを、選手が独断でするわけがない。

 

しかし、劣勢な試合がずっとつづいた終盤などに、

鬱憤の溜まった選手が、つい我慢できなくなって

ラフプレーをしてしまうことがあります。

 

そういうものの一種かもしれないと思ったのです。

 

しかし、このプレーは、試合の中での第1プレーでした。

 

そこから必然的に導き出されることは、

「これは狙いを持って行われたプレーである」ということでした。

 

しかもこの選手は、すぐにサイドラインに下げられることがなかったばかりか、

その後、つづけざまにパーソナルファウルを犯し、

あげくに退場になっていました。

コーチもベンチも、退場してきた選手を叱責するでもなく、

異様なまでに淡々としていたことにも違和感を覚えました。

 

「なんということだ!」

 

フェニックスに対する憎悪の念が、私の中で渦巻きました。

 

つまり、日大フェニックスは、試合の序盤に、

相手のQBに怪我を負わせてしまおう、という作戦を立てた、ということです。

関学と日大という、歴史を作り上げて来た両校の関係を、

こんなにも安易にぶち壊すことができるのか?

日大とは、その程度のチームだったのか?

 

私の中で、悲しい気持ちも大きくなりました。

 

状況証拠が出揃いつつあったし、

監督が自分が指示したと証言している、という情報もありました。

その上、日大は、この件は、

指導者と選手の解釈の乖離が原因だと言って来た。

 

責任を学生になすりつけている?

その卑劣さ、ズルさに、「2度と日大の赤を見たくない」とさえ思いました。

 

 

数日後、加害選手である宮川くんの会見がありました。

その場所で、彼の口からハッキリと伝えられた、コーチからの言葉。

 

これ以上の動かぬ証拠があるでしょうか。

 

もうフェニックスは潰した方がいい。

そのときの、私の偽らざる気持ちでした。

 

激しい憤りは、他人事としてネット上で騒いでいる人々の

比ではなかったと思います。

 

けれど、その翌日、内田前監督と、井上コーチの会見がありました。

 

「何を今更」

 

それが私の会見を聞くまでの気持ちでした。

会見が始まると、監督とコーチが、それぞれ同じ言葉で謝罪を述べました。

 

「気持ちがこもってないなぁ」という印象を受けました。

 

会見は二人からの発言はなく、いきなり質疑応答になりました。

「なんとふざけた会見だ」と思いました。

 

しかし、いざ、会見が始まると、想像したのと様子がちがう。

私は、本当に自分でも信じられなかったのですが、

彼らもまた、嘘をついていないことを感じたのです。

 

彼らが何をしたかったのか、いま、何を言いたいのか、

すべてが伝わってしまったのです。

 

それは、私の激しい偏見を超えて、まっすぐに伝わってきました。

 

彼ら二人の言葉には、一切の齟齬がありませんでした。

歯切れの悪いモノ言いも含めて、すべてが

選手を守りながら、世間からの誤解を解かなければという、苦渋の思いが、

言葉を慎重に選ばせている結果だとわかりました。

 

会見が終わり、正直なことを言うと、私は「安心」したのでした。

あの日大フェニックスが、こんなにも卑怯な方法で

ライバルを出し抜くことを画策したのだ、という悲しさが、

まったくの思い過ごしだったとわかったからです。

 

「なぁんだ、命令なんてしてないんじゃん」

 

よく考えたら、あの日大が、そんなことをするはずもない。

私は急激に冷静になりましたし、

一度はフェニックスを疑ったことを恥ずかしく思いました。

 

宮川くんも、本当のことを言ってるし、コーチ達も本当のことを言ってる。

あ、だから「解釈の乖離」なのか。

最初からそう言っていたな。私の心の耳がそれを聞こうとしなかっただけで。

 

そう思いました。

「偏見って、恐ろしいな。気をつけなくちゃ。」

 

宮川くんは、「やれ」と命令されたと思ってるから、やった。

命令されたと思ってるから、命令されたと言った。

そこに「ウソ」はない。

 

けど、コーチたちは、そんなつもりで命令は出さなかった。

誤解を招きそうなことは言っていたので、学生に非はなく、

反省しているし、責任をとって、指導者を辞任する。

 

そこにも、「ウソ」はひとつもない。

もう、これで十分。これでこの件は解決!

 

そのはずでしたが、火のついた世間が、許してくれません。

数字目的のマスコミに煽られ、権力者を潰せ!とばかりに

内田さんに悪の虚像を重ね、執拗なまでに彼からすべてを奪おうとする。

 

メディアを含めて残念ながら彼らの多くはフットボールを知らないし、

ギリギリの現場では何が起こるのかも知らない。

 

ただ、それぞれの正義感に駆られて想像力を失い、

何が悪いことで、何が悪くないことなのかなどまったくお構い無しに、

縛り上げ、抵抗できない人を滅多打ちにしている。

 

早くその愚行に気づかないと、取り返しのつかないことになる。

 

けれど、もう暴走は止められませんでした。

連盟や協会までもが日大をスケープゴートにしはじめ、

もはやこの流れを止める方法が、見つけられません。

 

 

ここで、アメリカンフットボールのひとつのプレーを見ていただきたいです。

関学は、関東のチームとは、日大、明治、日体大と定期戦をやっているのですが、

これは2013年の春に行われた明治大学との試合、

関学優勢の流れの中、最終クォーターで起きた反則プレーです。

 

 

皆さん、このプレーを見て、どう思うでしょうか。

まず、思ったことを素直に整理してください。

 

「酷いプレーだ!」

「いや、アメフトって、こういうもんだろう?」

「故意にやったにちがいない!」

「わざとなわけないだろう?」

 

様々だと思います。

 

この反則は、当時少し話題になり、いろんな意見が出ました。

 

この反則で関学のレシーバーが脳震盪になり、負傷退場。

タックルをした明治大学のSF(セイフティ)の選手は

パーソナルファウルで一発退場となりました。

 

これはどういうことか、できるだけ客観的に説明します。

 

アメリカンフットボールでは、パスが投げられてボールが空中にある場合、

攻撃側にも守備側にも、同様に権利があるため、

互いに捕球することを邪魔することが禁止されています。

 

言葉にすると難しいのですが、ボールを獲りに行く動きはいいですが、

相手をつかんだり、引き止めたりして、ボールを取れなくする行為は反則です。

 

パスインターフェアランスという反則です。

 

簡単に言えば、ボールが空中にある場合には

相手の体に当たってはいけないのだ、と思ってください。

(これは攻守、お互いにです)

 

このプレーの場合、明治の選手は関学のレシーバーがボールに触る

ギリギリ寸前で当たってしまっています。

 

ですから、これはパスインターフェアになります。

その場合、15ヤードの罰退で、関学のファーストダウンになります。

 

しかし、このタックルが、もうほんのコンマ何秒か後であれば、

つまりレシーバーがボールに触れた瞬間であれば、

このタックルは合法であり、衝撃で相手がボールを落とせば、

守備側のナイスプレーになるわけです。

 

これが、「ギリギリのプレー」ということですね。

 

しかし、この明治の選手が退場になったのは、なぜか?

彼は痛恨のミスをしているのです。

 

それは、タックルの仕方です。

アメリカンフットボールでは選手の安全確保のために毎年のように

ルール改正がなされているのですが、

ちょうどこの試合が行われた2013年から、タックルに関するルールが変わりました。

 

それがターゲティングという反則で、

簡単にいうと、タックルするときに頭を下げて、ヘルメットの頂点で当たることと、

無防備な相手の首から上へのタックルが禁止されているのですが、

 

大怪我につながるプレーなので、前年まで15ヤードの罰則だったものが

「資格没収(退場)」にまで格上げされたのですね。

 

で、彼は相手に対してヘルメットで当たりにいっているので

ここではより重大なターゲティングの反則が適用されて、

彼は一発で退場になったということです。

 

ちなみに、このプレーはボールを投げられた場所で起きた反則だったため、

そこにいた全員が見ていました。

ネットでの反応は、その日のうちからかなり大きなものでした。

 

ボールのある場所で起きているからこそ、審判も見ていたし、

一発退場にできたわけですね。

 

日大の件とのちがい、わかるでしょうか。

 

 

では、このプレーは、わざと相手を傷つけるための「ラフプレー」だったのでしょうか?

それについては、本当に微妙です。

 

守備バックは相手のパスを止める最後の砦なので、

最悪パスが通っても、すぐにタックルしなければならないですし、

 

すでにパスカットができるタイミングではないので、

捕球した瞬間にハードタックルをしようとは思っていたはずです。

もちろん、それは合法です。

 

それがスポーツマンシップに反するか、というと、そうではないし、

結果的に相手が脳震盪になってしまったけれど、悪意があったわけではなく、

例えば今回のことを傷害事件として立件できるかといったら、絶対に無理です。

 

明治のSFがやるべき行動の正解は、

パスがレシーバーに届いた瞬間に、自分の「肩」で、

相手の首より下にヒットすれば良かったのです。

そうやるぶんには、どれだけハードにヒットしても反則ではないし、

おそらく観客がどよめくようなシーンなっていたことでしょう。

 

ということは、このプレーが反則になってしまったのは、

タイミングとタックルの姿勢というSFのミスなのであり、悪意はないわけです。

 

スーパープレーとラフプレーは常に紙一重です。

 

危険につながるミスは大きな罰則で縛られているけれど、

コンタクトスポーツである限り、完全に防ぐことはできない。

だから、仕方がない、という意味ではなく、

だから彼は退場になったのだ、ということ。

 

選手もコーチも審判も、これからもこういう「事故」で

大きな怪我が起こらないように、気をつけよう、ということです。

 

それ以上のことは、言えない。

これは競技中の「起こりうる」アクシデントだからです。

 

 

この明治の反則と、今回の日大の反則。

両方とも負傷はしていますが、決定的にちがうのは、

プレー中に起きているかどうか、です。

 

もし、あの明治のSFがものすごい批判にさらされたときに、

監督が「反則を恐れずに思い切って行ったのだから、あの子は悪くない」と発言し、

試合前に監督が「反則を恐れず思い切っていけ」と

指示していたことがわかったとして、

それが「反則の指示による故意の悪質タックルだ!」とはなりませんよね?

 

いや、フットボールを知らないと、そう思ってしまうのでしょうか?

 

その辺りにも私はフットボールを知っているか、知らないか、

という文化の違いを感じています。

 

 

度重なる発信で、誤解をされてはいけないので、

改めて言いますが、私は反則プレーは容認しません。

 

今回の日大のプレーは言語道断です。

 

反則プレーを行なった宮川選手が無罪放免になることはありえませんが、

同時に、このプレーが発生するに至った責任は日大の監督・コーチ陣にあります。

 

それは、自らの指導法に、当該選手がどのように反応していたか

ということをしっかり把握できていなかった、という意味での責任であり、

そこを改める再発防止策は必要です。

 

しかし、彼らに「関学選手を怪我させる」という目的意識はなく、

あのような反則行為を実行せよという指示はなかったと思いますので、

すでに監督・コーチを辞任し、社会的制裁も含めて

余りある制裁を受けていると思います。

 

これ以上の責任追及の必要はなく、日大フェニックスが

秋のシーズンに試合ができるよう、

社会がバックアップしてあげるべきだと思っています。