昨夜、日大アメフト部の

内田前監督と井上コーチの会見を見ました。

 

今まで、関学の会見、日大・宮川選手の会見、

そして今回の日大首脳陣の会見も、すべてフルで見ています。

 

今回、この会見を見た後で、どのように感じたのか、

ということを素直に書こうと思います。

 

自分が今まで書き記してきたことと反する部分もありますが、

新しいことに気がついた時に、それを素直に受け入れることは

非常に重要なスキルだと思っていますので、

どうかご容赦ください。

 

それと、今回のことを理解するには

「先入観を捨てる」ということが必要です。

 

それと、すべての世界に、

「そこにいる人にしかわからない常識」というものがあるので、

よその世界にはよその世界の常識があるものだという事実への

寛容な気持ちが不可欠です。

 

読むにあたっては、その気持ちを持っていただければ、と思います。

 

私の今の意見は、世の中で言われていることとはだいぶちがいますから、

あなたのお考え・感想とは異なる可能性がありますが、

何かのご参考にしてください。

 

会見では、フットボールのことをまるでわかっていない人が、

フットボールの世界では当たり前であることを理解せずに

一方的に批判前提で質問していた、ということも、

フットボール経験者であり、日大の付属校を卒業し、

関学アメフト部のOBである私からすると、とても胸騒ぎのするものであった、

ということも付け加えておきます。

 

 

「真実は、必ずしもひとつではない」

 

 

あるひとつの事象が起きた時、そのことが

どのように受け止められるか、ということは、

その人の立場や、環境によって異なります。

 

人は自分の主観でしかものを考えることができませんから、

あることについて複数の意見が出てきても

必ずしも「どちらか片方が嘘をついている」わけではない。

 

私もあなたもそうであるように、

人は「かんちがい」をよくする生き物だからです。

 

 

今回、日大・宮川選手、そして内田前監督・井上コーチの

両者の会見を総合して、私が思ったことを簡単に表現すると、

「両者とも、真実を語っている」ということ。

「意見の食い違いは、嘘ではなく、解釈がちがっていた」ということ。

「それでも責任は『オトナ』であるコーチ陣にあり、

 それはコーチ陣も認めている」ということ。

「問題の本質は、本来、味方同士であったコーチと選手が、

 言葉の共有化ができていないことが原因で分断された『悲劇』」であること。

 

コーチは選手にプレッシャーをかけたのです。

その目的は、選手を発奮させるためでした。

コーチが選手にプレッシャーをかけることは、まったく悪いことではありません。

 

でも、この選手はそのプレッシャーを発奮ではなく、

「悩み」の方向に解釈してしまった。

 

これは選手が悪いのではなく、いろんな選手がいる、ということを

理解できていなかったコーチが悪いのです。

 

そして何より、コーチたちが、「選手の誤解釈」に

気づいてあげられなかった、ということが、まちがいの原因だったのでしょう。

 

スポーツに本気で取り組んだことのない人は、

選手へのプレッシャーそのものに抵抗感があるかもしれませんが、

それはアスリートの世界ではある程度当たり前だし、

フットボールは「やるかやられるか」のコンタクトスポーツですから、

「相手をつぶしてこい」というのは当たり前に言われることです。

 

しかし、その意味はあくまでも「ルールの範囲内で」に決まっています。

そのことを、わざわざ言わなくても、「ルールを破れ」という指示を

指導者がするはずはありません。

 

今回も、日大のコーチ陣が「ルールを破れ」とは言っていない。

それは確かなことだと思います。

 

フットボールはコンタクトスポーツですから、ケガはある程度つきものです。

選手と選手が体当たりをするわけですから、怪我をしてしまう場合はある。

相手をやっつけるつもりでプレーする。

でも、ホイッスルが鳴ったら、やめる。

それが格闘要素の入ったスポーツのスポーツマンシップです。

 

アメリカのプロフットボールNFLの名QB、ジョー・モンタナも

プレー中の負傷で病院送りにされたことがあります。

もちろん、ルールの範囲の中で起きたプレー中の負傷です。

(のちにQBを守るためにルール改正されました)

 

お分りいただきたいのは、「つぶせ=ルールをやぶれ」という意味ではない、

ということです。

ルールを守って相手をつぶすことは、いくらでもできる、ということ。

コーチが「相手をつぶせ」なんて、格闘技ですからいくらでも言います。

それは罪ではありません。

 

しかし、「ルールを破れ」といったらそれは罪だし、

そんなことを選手に要求するコーチはいないはずです。

 

相撲だと思えばいいと思いますが、

相手を叩き潰すつもりでいないと負けてしまうのはわかるでしょう。

でも、お相撲さんだって、正しい取り組みの中で怪我しますよね。

そういうケガは当然、ありえます。

 

相撲の中で、「相手をつぶしてこい!」と言われたら、

言う側は当然、相撲の勝負で相手をつぶす、という意味だと思って言っているし、

受け止め側もそうだと思っていると思ってるはず。

 

ただ、すでに取り組みの終わった後で、相手を土俵から投げ落としたりしたら、

これはルール違反です。

そんなことを要求するわけがない。

 

けれど、彼はそう解釈してしまった。

コーチによるプレッシャーが、彼にそう解釈させてしまったのですね。

つまり「プレッシャーのかけ方」

井上コーチの言葉で言えば「試合への持って行き方」に失敗した、ということです。

 

 

私は前回のブログで、

「アラインはどこでもいい」というコーチの指示と、

「リードせずにいく」という宮川くんの発言を取り上げました。

私はこの件の発言を全面的に撤回します。


このことに、井上コーチはこう答えています。

彼はディフェンスエンドですから、アラインのちがいというのは

狭いか、広いかしかない。どこでもいいというのは、そのことだ、と。

 

言われてみればその通りです。

私は当初、広いフィールドの、どこに位置してもいい、

という意味だと思ってしまったのですが、

これはディフェンスエンドと、ディフェンスラインコーチの間の会話なのです。

 

アラインはどこでもいい、といって、まさかディフェンスラインが

コーナーバックの位置にくるはずはない。

 

井上コーチの発言は、まったく納得いくものです。

 

(そもそも報道陣の質問は「アライン」を「アイライン」と言っていて、

 まったく物事の意味をわかっていない素人でしたね。)

 

 

次に「リード」の件ですが、

井上コーチは「とにかく宮川選手に、思い切りよくプレーさせたかった」

と言っています。

 

ここでいう思い切りというのは、「迷いなく」という意味でしょう。

スタートに集中して、プレーが始まった瞬間に、

全速力で動いて欲しかったわけです。

 

そのために、選手の頭脳的な負担になる「リード」という作業から

一時的に解放してあげたかった。

だから、宮川くんの「リードせずにつっこむけど、いいか?」という確認に、

「思い切り行って来い」と答えた。

 

私には、どこにも疑問の余地はありませんでした。

 

 

井上コーチは、「相手のQBは知り合いなのか?」

とは言ったと証言しています。

 

けれど、相手のQBを怪我させたら得か損か、とか、

関学との定期戦がなくなってもいい、という発言はしていない、

と言いました。

 

私は、ここも井上コーチが正しいと思いました。

根拠は以下です。

 

まず、たとえ日大といえども、

秋の甲子園を前提にして計画を練れるほど

今の学生フットボールが甘くないことは、コーチはわかっています。

 

半年もあとに対戦する可能性が少しある、くらいの関学QBを負傷させることと、

それにともなう自軍のリスクを天秤にかけた時、

そんなバカなことをするはずがありません。

 

日大の目標は、まずは目の前の1試合に勝つことなのであって、

甲子園なんて、まだまだ眼中にないはずなのです。

 

つぎに、定期戦の話ですが、定期戦をやめるやめないの話は、

今回の事件をうけて関学側が初めて言い出したことです。

また、過去の日大ー関学戦の中で、関学のQBが負傷したことはあります。

それでも両校の関係に変化はありませんでした。

 

つまり、関学日大の定期戦がなくなるかどうか、

ということを事前に想像することなど、ふつうはありえないのだと思うのです。

 

それでも、宮川くんはそう言われたと思っている。

そう彼が解釈してしまうような何かが、きっとあったのだと思います。

 

けれど、井上コーチは、そんな意図で何かを言ったことはないのだと思います。

 

宮川くんと井上コーチは、高校時代からの師弟関係です。

おそらく、井上コーチにとって、宮川くんは、とくにかわいい、

深い思い入れを持った選手だったのでしょう。

 

そんな二人は、我々が思っている以上に、たくさんの時間を一緒に過ごし、

たくさんの言葉をかわしてきたのだと思います。

 

そんな、たくさんの言葉の中には、過激な単語もたくさんあったろうし、

それらの組み合わせと、プレッシャーに心が押しつぶされていた

宮川くんの精神環境が、そのような解釈につながったのだと想像します。

 

本当の親子だっていろんな誤解があって当たり前ですから、

こういう二人にだって誤解が生ずることもあるはずです。

 

だから、宮川くんは言われたと思ってるし、

井上コーチは言っていないと言っている。

井上コーチの中に、「関学のQBをつぶしたい」という気持ちがない以上、

そんなことを要求するはずはない。

だから、そんなことを言ったはずはないと断言はできるものの、

宮川くんがそういう結論に至った要因になる言葉は、

自分の過激な言葉群の中にはあったはずで、

それがなんだったのかはわからない、という趣旨で

「一言一句は覚えていない」と言っているのでしょう。

 

私がとても注目したのは、井上コーチの宮川くんへの「熱い想い」でした。

 

この子をなんとか立派な上級生にしたい、という想いが

それを受け止めきれなかった宮川くんを追い詰め、

「QBをつぶしてこい!」という激励が「命令」に変化し、

コーチの中の「思い切りプレーする」という目的が、

宮川くんの中で「QBを壊す」という目的にすり替わって

その後の会話がなされていった。

 

だから、二人とも本当のことを語っているし、

そこに「ふたつの本当」が存在していることに、誰も気づかなかった。

 

そういうことです。

 

 

私が両者の会見から新たに注目したことをひとつあげます。

それは、当該プレーを見ていた井上コーチが、

「一瞬自分も固まってしまった」

「でも、彼を試合に出させてやりたかった」

という思いから、交代をさせなかった、ということ。

 

これはつまり、コーチも「あれ?宮川の様子がおかしいぞ」とは思った

ということなのです。

 

それと、これは私も宮川くんの会見まで知らなかったのですが、

実は1プレー目に反則し、2プレー目が終わった後、

宮川くんはベンチの呼び戻されて、井上コーチから言葉を受けています。

 

それは「キャリアに行け」でした。

でも「散々QBに行けと指示されていたので、意味がわからなかった」

と宮川くんが言っています。

 

「キャリアにいけ」とはどういう意味かというと、

「ボールを持っている選手をタックルしろ」という意味です。

 

宮川くんの動きに異常を感じたコーチが、

ちゃんと正しく指示している。けれど、それを受け入れることが

そのときの宮川くんにはできなかった、ということです。

 

このことはとても大きくて、

日大のコーチが「反則してでも関学のQBをつぶせ」とは言っていない

明確な証拠だと私は感じたのです。

 

 

内田(前)監督の指示があったか、ということにも質問は集中し、

内田さんは「指示はしていない」と明言しました。

 

私も前言を撤回します。内田監督は、指示していないでしょう。

 

もともと、日大は選手と監督が直接言葉をかわすことは少ない。

そういう意味でも、直接命令をくだしている可能性は少ないです。

 

日大の指導部は、監督からコーチへ、コーチから選手へ、というフローが

しっかりと根付いているため、指示はコーチから出るはずです。

 

そして、その環境の中で、監督の真意をコーチが汲み取り、

コーチが自分の言葉で選手に伝えるのでしょう。

 

ですから、今回は、なんとしてでも宮川くんを成長させたかった井上コーチが、

プレーへの飢餓感をあおるために、試合2日前から彼を練習から外し、

「試合に出たい」と監督に直訴させ(やる気を示すための坊主頭も含め)、

その上で、関学戦で宮川くんが思い切り活躍する、という筋書きを思い描いた。

 

そのために井上コーチは

「QBを壊せば~と監督が言っているから、やりますと言いに行け」と

監督からの指令を作ってしまったのでしょう。

そこに監督擁護の忖度はないと思います。

 

けれど、もちろん宮川くんにとっては、これが監督命令に見えるはずです。

内田監督は、そんなやりとりは何も知らず、

試合の中でも、目はボールを追っていたため、

宮川くんの個人的な主要な反則は、普通程度のレイトヒットと、
最後の「喧嘩沙汰のこと」だと思い、

試合後、宮川くんを擁護するために「私の指示だ、私の責任だと言え」と言った。

ある意味、リーダーとしてちゃんとしている。

 

つまり、そんなに大ごとだとは知らなかった、ということ。

これは関学の鳥内監督もそうだったので、責めることはできないでしょう。

 

これを総合すると、「反則指示はしていないが、私の責任だ」ということになる。

それが、彼を極悪人に決めつけたいという(私を含めた)色眼鏡をかけた人々には

いい加減な発言に見えた、ということです。

 

 

内田監督は会見の中で、去年の4年生のことと、

新3年生のことをしきりに話していました。

 

これは、わかっている人にしかわからないと思いますが、

できるだけ丁寧に説明してみます。

大学というのは4年間しかありません。

1~2年生は下級生でお客様。3~4年生は上級生でチームの主体です。

 

お客様から主体の側に移る、2年生から3年生への変化というものは

周りが思っているほど簡単なことではなく、

そこでは精神的な成長がものすごく重要なのです。

 

宮川くんを未来のリーダーの一人にしたかった日大首脳陣は、

3年生としての彼に、多くの「人格」を求めたのでしょう。

しかし、宮川くんはそれにまだ精神的についてこれなかった。

 

そういうことは、よくあるのです。

 

恵まれた体格や能力、才能をもちながら、

気持ちが弱いために、最高の力を発揮しきれない子。

コーチというのは、そういう子をよく理解できます。

だから、必死に指導して花開かせようとする。

 

宮川くんは、まさにそういう例だった。

だから井上コーチも、指導に熱が入った。入りすぎた。

 

それは「勝利至上主義」でもなんでもなく、「愛」だったと、私は思います。

 

ただし、それがちゃんと伝わらなかった。

そういうこと。

 

私は彼らの会見に「チーム作りに腐心するコーチたち」の姿を見ました。

 

そして何より、ボタンをかけちがってしまったために、

分断してはいけない選手とコーチが分断してしまったことの悲しさ。

 

そして、互いが本当はどう思っていたのかを、

実はこの会見をもって知ったのではないか。ということ。

 

報道では「元部員」という人の発言が取りざたされていますが、

「元部員」というのは今のフェニックスがいやで、やめた人たちなので

あまり信憑生はないと思っていいはずです。

 

重要なのは、現役とOBの意見です。

共同通信の宍戸さんや、ネットで意見を言った

OBの新井さんの意見を待ちたいところです。

 

 

私は、両者ともそれぞれの立場から真実を話していると信じます。

しかし、非があったのはオトナであるコーチ陣だと思います。

 

関学サイドを含め、

それぞれがちゃんと相手を理解し、わかりあうことを望みます。

 

まだまだいいたことはありますが、ひとまず、ここまで。