ある例え話をしましょう。

小学生のときに、怒ると発狂して、 
カッターを振り回してしまう同級生がいました。 

落ち着いているときは、控えめな、普通の子なのですが、 
怒ると自制心を失い、常軌を逸した行動をとってしまうのです。 

その子のその行動は、みんなの間で冗談のように語られながらも、 
心のどこかで「あいつは怖い。何をするかわからない。」と 
思われていました。 

いま、大人になって同窓会などでそいつが来ると、 
みな、そのことについて直接語るものはいません。 
けれど、どこかそのときのエピソードが 
その人物のイメージを決めていて、 
みな心のどこかで「変わった奴」という意識を持ち続けている。 

皆さんも、そんな経験はないでしょうか。 

ここまでの話は、例え話です。 

ちょっと話のレベルを大きくしますね。 

   * 

物事を正しく認識するには、 
それぞれの立ち場や環境、経緯と知る必要があります。 

ヨーロッパは日本と違い、地続きでつながっているので、 
国境というのは本当に人為的に決められた線でしかなく、 
歴史的にその線をどこに引くか、という争いが行われてきました。 
全面を海で隔てられた日本人には、ちょっと理解しにくい感覚ですが、 
そこにいる人の気持ちになって理解しましょう。 

第二次世界大戦が起こる前に、第一次世界大戦が起こりました。 
1914年のことです。 

まさか、もともと第二次があるなどと予定していませんから、
当初は単に「The Great War」大戦争と呼ばれたそうです。 

この戦争はドイツを中心とした「同盟国」と 
イギリスやフランス、ロシアを中心とした「連合国」の戦争で、 
最終的にはドイツが敗れたわけですが、 
人類は、このような全世界を巻き込んだ大戦争は初めてのことで、 
この経験はヨーロッパ中の人々を傷つけました。 

フランスは170万人の犠牲者を出しましたが、 
どこよりも多くの人が死んだのが、ロシアです。 
375万人とも言われています。 

人々は、この苦々しい戦争のあと、 
二度と戦争が起こらないように、と、いろいろ考えました。 

何よりも恐れたのは、ドイツという国家のことでした。 
ドイツは戦争をしだすと、何をするかわからない。 
そう思ったフランスは、巨額の戦時賠償金をドイツに要求します。 

この要求は、戦後のドイツの復興を大いに遅らせただけでなく、 
ドイツ国民の心の中に大きな不満感を蓄積させました。 

そんなときに、独裁者アドルフ・ヒトラーが現れたのです。 
人々の敗戦による劣勢を覆したい、という思いと 
ヒトラーの「ドイツ民族は自立する」という主張が合体し、 
ドイツは再軍備の道を進んだのです。 

こうして第二次大戦が始まったわけですが、 
皆さんは、この戦争で、 
もっとも多くの犠牲者を出したのはどこの国か知っていますか? 

それはソビエトなのです。 

日本の犠牲者は軍人と民間人合わせて300万人と言われていますね。 
ソ連は2800万人の死者が出た、と言われています。 
桁違いの多さです。 

ソ連兵の多くは、ドイツによる侵攻に抗う戦闘の中で亡くなりました。 
ドイツはヨーロッパ諸国を次々と空爆したので、 
ヨーロッパ中の人々を殺したのです。 

ここでわかって欲しいのは、ロシア(ソ連)の人々を筆頭に、
ヨーロッパの人々はドイツをどう思っているか、ということなのです。 

戦争なんかけしかけてきて、けしからん。 

もちろんそう思っているでしょうが、この二度の大戦を引き起こし、 
ヨーロッパ中で殺戮の限りを尽くした国家です。 

端的に言えば、みな、ドイツが怖いのです。 

どういう風に怖いのか、というと、軍隊が強いとか、そういう怖さではなく、 
「こいつら、武器を持ったら何をしてくるかわからない」という怖さなのです。 

イメージ湧くでしょうか。 
冒頭の例え話、思い出してください。 
今はまともな顔をしているけど、いつ気が狂って爆撃してくるかわからない。 
そう思っているのです。 

リアルに。 

そんなこと、あるわけないと思うのは、日本がそうされたことがないから、 
想像できないだけなのです。 

そのトラウマは、ヨーロッパ諸国にはずっとずっと消えずにある。 
ドイツ人は、狂うと何をするか、わからないのだ、と。 

ベンツを生み、世の優れた工業製品を生み出す、知的なイメージ。 
あるいはビールやウインナーでしょうか。 

日本人が抱くドイツ観はそんなものでしょう。 

しかし、同じ屋根の下に住むヨーロッパ人は、 
二度の世界大戦を引き起こした首謀者、という印象を決して忘れないのです。 

だからドイツは、ずっと謝るし、ずっとずっと反省するのです。 
そしてそれを周りの国にちゃんと伝えるのです。 
「もうあのときの俺じゃないから、信じてくれ」と。 

そして、ようやくみんなが「まぁ、本当に心を入れ替えたのかもね」と 
認めてくれるようになった。 

ここまで、なんとなく、イメージできるでしょうか。 

   * 

さて、ここでもう少しだけ、想像力を働かせてください。 

70数年前、日本がアジアに対して何をしたのか、ということを。 

大東亜戦争という名前は、 
日本の侵略計画を正当化するために付けた名前なので、 
まぁ、戦争法案を安保法案と呼ぶロジックと同じなのですが、
西欧の支配からアジアを解放する、という名の下に、 
日本が行ったのは、ただ単に日本がアジアの支配者になろうとすることでした。 

日本がアジア諸国を侵略したことは、 
ひとえに「どこが戦場だったか」ということを考えればわかるわけで、 
先の大戦は、客観視できる誰がどう観ても、 
日本による侵略戦争だったわけです。 

もし中国人が日本本土に上陸して、私たちが暮らす場所で 
銃を持って我々を統制しようとすれば、それはどんな大義を振りかざそうと、 
そこにいる人々に取っては侵略です。 

日本は、侵略を企てたのです。 

しかし、それは当時は西欧列強が普通にやっていたことなので、 
日本も同じことをやっただけ、ということです。 
もちろん、そのようなことは許されないのですが、 
侵略ではなかった、などという意見は歴史の湾曲に他なりません。 

で、 

ここから重要なのですが、 
それまでそれほど存在感のなかった日本という国が、 
西欧化して武器を手にした途端に、海を渡って攻めて来た。 
これが客観的事実です。 

そうされたアジア諸国からしたら、どういう風に日本を観るでしょう。 

ドイツのことを思い出してください。 
カッターを振り回す同級生を思い出してください。 

みんな、日本が怖いんですよ。 

中国も韓国も、その他のアジアの国々も、 
日本のことが怖いんです。 

みんな、中国が脅威だとか、言いますね? 
でも、本当は逆なんです。 

みんな日本が怖いんですよ。 
あいつら、武器持ったら攻めてくるぞって。 
だって、過去に本当にそうしたから、ですよ。 

やった方は忘れても、やられた方はずっと忘れない。 

皆さん、中国は日本を怖がっているなんて、思ったことないでしょう? 
怖いから、靖国参拝でもなんでも、 
戦前の体制にもどろうとしている証拠だ!と過剰に反応する。

いつまでも「謝れ」と言ってくるのは、怖いからです。 
日本がキチガイになるのが、怖いからなのですよ。 

で、当の日本人はどうしているか、というと、 
いつまで謝ればいいんだ、とか、もう金を払ったから終わったはずだ、とか、 
そんなことしか言わない。 

挙げ句の果てには、あの戦争は正しかった、などと言い出す。

そういう状況を見て、過去に自分の国土を蹂躙された人々は、どう思います? 
しかも、いま、経済的にやっと存在を意識させられるようになったのです。 

わかりますか? 

これが正しい見方なはずです。 
日本人の態度は、とてもドイツとは比べ物にならないくらい他人事で、 
反省のかけらもない。 
昔の日本人がやったことでしょ?って。 

向こうからしたら、昔の日本人も、今の日本人も、 
同じ日本人なんですよ。 

それを絶対に忘れちゃダメです。 

そういう風に考えてしまうこと、理解できるでしょう? 

我々は気付いてないけど、我々は心の奥底で怖がられてる。 
何をしだすかわからん奴だ、信用できない奴だ、 
武器を持ったら、絶対に攻めてくるぞ。 

そう思われている。 

そんな中、今の政権は何をしていますか? 
どんなメッセージを外に送っていますか? 

本当に脅威なのは中国ではなく、日本自身の行為ではないですか? 

そういう目で、「今」をもういちど観てみてください。 
きっとわかるはずです。