ホテルに泊まった初日の夜、なぜか眠りが浅い――そんな経験はありませんか?

この現象は「初日効果(First night effect)」と呼ばれ、多くの人に共通するものです。名古屋大学の研究グループが、この身近な現象の裏にある脳のメカニズムを新たに解明しました。


新しい環境では、脳は“警戒モード”になる

動物や人間は、初めての場所に置かれると自然と覚醒度が高まり、周囲を注意深く観察します。

これは単なる気のせいではなく、生存のための適応反応です。新しい環境は危険が潜んでいる可能性があるため、脳は睡眠を抑えて覚醒を優先させ、安全かどうかを確認しようとします。

 

しかしこれまで、

👉 脳がどうやって「新しさ」を感知し、覚醒を維持しているのか

という具体的な仕組みは分かっていませんでした。


覚醒を維持する“特別な神経回路”を発見

研究チームは、脳の「拡張扁桃体」という領域にある特定の神経細胞に注目しました。

マウスを使った実験の結果、この領域のCRF神経と呼ばれる神経が、新しい環境に置かれたときに強く活性化することが判明しました。

 

さらにこの神経は、

  • ニューロテンシンという神経ペプチドを放出し

  • 中脳の「黒質網様部」に信号を送り

  • 覚醒状態を維持する

という回路を作っていることが分かりました。

 

この神経を人工的に活性化するとマウスは覚醒し続け、逆に働きを弱めると、新しい環境でも早く眠ってしまいました。

 

つまり、

👉 この神経回路が“新しい場所で眠れない理由”の中枢だった

ということです。


睡眠障害の治療につながる可能性

この研究は単なる好奇心を満たす発見ではありません。

新しい環境での過剰な覚醒は、不眠症やストレス関連の睡眠障害、さらにはPTSDや不安障害とも関係しています。

 

今回見つかった神経回路は、

  • 不眠症の仕組みの理解

  • 覚醒を調整する新しい薬の開発

  • ストレスによる睡眠障害の治療

といった分野への応用が期待されています。


身近な体験を科学が説明する

「なぜ初めての場所では眠れないのか?」

この誰もが感じる疑問に対して、科学はついに脳の回路レベルで答えを示しました。

私たちの脳は常に安全を最優先に考え、新しい環境では無意識のうちに警戒態勢に入っています。眠れない夜も、実は体が私たちを守ろうとしている証拠なのかもしれません。