年の初めに旅に出ようと思いつき

どこへ行こうか迷いながらもう10月



悶々としながら

夏の暑さに耐えていた頃に

見知らぬ自治体から

承継人として故人の住民税を支払えと

理由の分からない請求書によって

血縁上の父親の死を知らされ



ひとしきり送付元の

自治体職員へ悪態をつくと

なんだかスッキリして

その請求書の支払いを済ませた



しかし滞納家賃や

他に借金などがあれば怖いからと

自治体職員に詰め寄ると

公営住宅の管理会社の連絡先を教えられ

またたらい回しにしやがってと

憤りながらも仕方が無いから

その事務所へ連絡した



最初に困ったのは 

自己紹介だった



氏名と住所は

請求書に記載されているから

それを電話口の相手に伝え

自治体から承継人として

住民税の請求を受けて

その際に家賃滞納などが心配で

状況を知りたくて

連絡した旨をそのまま伝えると

意外とあっさり

退去の手続きは終わっていると

教えてくれたのでホッとした



自治体の職員へも

何度となく質問したのだが

役所が死亡を確認したという事は

誰かしらが死亡届を提出して

それが受理されて戸籍を辿り

こちらに請求しているのだから

家族がいるのではないか



その疑問の一端が 

管理会社の担当者によって

ようやく解決し

家賃の滞納や退去費用も

入居時の保証金で賄うので

こちらには請求しないと説明されて

役所よりもよっぽど役に立つけれど

法令違反では無いのかと

少し電話口の親切な担当者の事が

心配になったがすぐ忘れた



しかしこのまま承継人の立場を

放置するのも怖いからと

仕方無く家庭裁判所へ連絡して

権利を放棄するには

どうすれば良いのかと聞いてみると 

長々と話されたけれど

結局のところ理解出来たのは

戸籍謄本を手に入れろだけだった



分からないものは仕方が無い

とにかく出来る事をやるしかない



最寄りの区役所へ行き

自分の戸籍謄本を申し込み

とにかく欲しいのは

父親の戸籍謄本なのだから

支払い窓口の担当者へ

試しにこの出生届を出した父親の

戸籍謄本は取れないか尋ねると



あの見知らぬ自治体の

不親切な職員などとは違い

親身にこちらの質問に対して

真摯に向き合い

部下を呼び寄せて

母親の戸籍から入れば

おそらく父親の戸籍に辿り着けるからと

まるで2時間ドラマの

ワンシーンを観ているかのような

指示を目の前で出してくれて



750円払い渡された

父親の戸籍謄本を見ると 

亡くなった翌日には

親族によって死亡届が出されて

除籍されていた



たしか家裁の担当者も

住民票の除票が必要だとか言っていたから

戸籍謄本の除籍でもイケるかもしれない

そう思った途端にホッとしてしまい

そのまま放置し続けて早一ヶ月



その間に何をしたかと言えば

旅行の手配だった



戸籍謄本には

いろんな住所が記載され

顔も知らない父親の出生地から

死亡時の住所まで丸分かり

死亡届の提出者の名前まであり

女性の親族と記載があった



だったらこの親族に

住民税を請求しろよと

独り言で毒づくと

不意に思いついてしまった

そうだ戸籍を巡る旅に出よう



旅の目的地を

この父親の戸籍謄本にある

出生地から本籍地

そして最後に暮らしていた住所を

巡る事にするという

この酔狂な閃きに心が躍った



早速アプリで

航空券を探すとLCCなら

片道一万円もしない

安いこれは予想以上に安いと

ますます心が踊った



父親は茨城県の地方で生まれ

その後千葉県に移り住み 

私の生まれた頃には都内に暮らし

最期は公営住宅で一生を終えた



茨城ならフェリーもあるなどと

ワクワクしながら

こんなに安いなら母親の方も

行っちゃうよとなって

検索するとこれがまた安かった



母親は熊本で生まれ

その後長崎の軍港の街へ引っ越し

そこから東京へ出て

もう北海道の地方に暮らして

四十年になるが

この北海道から福岡への

航空運賃が成田と変わらないって

だったら福岡のほうが

コスパ良いんじゃね?となり



そういえば福岡には行った事が無い

幼い頃に祖父母を訪ねた時は長崎空港から

移動したから行ってみたい 



福岡から母親の出生地へは 

列車で1時間半で新幹線なら30分

エッ新幹線乗りたいとなって

行き先は福岡へ変更


11月の旅の予約を2ヶ月も前に

航空券とホテルを予約してから1ヶ月

今はワクワクしている真っ最中



顔も知らないお父さん

ゴメンなさい

俺やっぱ福岡に行きます

だって新幹線乗りたいだもん



茨城や千葉には

近い内に必ず訪ねます

あの日あなたが

出生届を出してくれた赤ん坊も

今年で48になりました


なんて届きもしない言い訳を

独り言で呟いて

承継放棄の手続きを

すっかり先送りにしている

だって面倒くさいんだも〜ん