そんなものを

持つほどの苦労は無かった

そのせいだろうか

それを持った自覚がない


子供の頃は

とにかく元いた場所へ戻りたい

その一心と現実の不便さが

どうにか出来ないものかと文句を

言っては忘れるの繰り返し


比較的便利な都市部で育ち

5歳になる年に

僻地の田舎へ移住したものだから

そこでの暮らしの不便さが

とにかく嫌で

その場所で暮らす年数が増えても

その感覚は消えず


だからなのか

便利だと思う事が好きで

それは人でも物でも

頼れる何かは利用する


とにかく不便を無くしたい

それが夢と言えば夢だったかもしれない


一人暮らしは

不便なような気もするが

家族と言えども気を遣わずに

気を抜ける空間で過ごす時間は

とても快適で


やらなければならない事は

確かに多いけれど

その負担を負ってでも

一人の暮らしは捨てなれない


30年前ですら

そう思えたのだから

今ではそれ以外の環境なんて

考えられない


低賃金だから

朝から晩まで週6勤務

休みなく働くし

肉体労働だから疲れもする

だから休みの日は

何もせずにのんびりしたいけれど

部屋の掃除やら洗濯やらと

やらなければならない事に忙殺されて

自由どころか呆ける暇もない


けれどもそんな生活すら

実家暮らしの時よりは心地良くて

家賃を振り込む為に 

営業時間内に銀行へ行くなど

今では考えられない事でも

煩わされて

どれだけ面倒だと思った事か


それが今やスマホで解決

休日に掃除や洗濯をするのは

もう習慣になり

その作業をするだけで一日が終わる

そんな休日でも満ち足りてしまう


若い時の苦労は買ってでも

しておいた方が良いというのは

たしかに本当で

あの煩わしさを体験しているから

この便利さが理解出来る

不便を知らなければ

知ることの出来ないこの便利な感覚


まるで太古の王侯貴族のように

あらゆるサービスに囲まれて過ごせて

しかもその空間には一人きり

何をするにもお付きの誰かに囲まれた

そんなお偉い人のような暮らしは

まっぴら御免だから

こんな暮らしがちょうど良い


バブル期に少年時代を過ごし

氷河期に不便を強いられ

酷暑の列島で北海道に暮らす


幼い頃に失くした暑い夏を

温暖化の影響で移住先の北国で

再び手に入れて

しかも冬にはしっかりと雪が積もり

これまで通りの

寒さと雪景色も味わえる


時代が進むに連れて

便利が増えて行く

生まれたてに過ごした幸せが白ならば

氷河期を始めとする黒歴史が

今この瞬間の満足感の白に挟まれて

過ごした時間のすべてが白くなる感覚


その場その瞬間の

感覚では辛く苦しい出来事も 

振り返るとなぜか笑える

それはどうにかして

乗り越えられたという安堵感と

結末を知っているという安心感が

相まって感じる気持ち


夢や希望というものが

もしもあるとすると

こんな面白い遊びが未来には有ると

事前に誰かから知らされていたら

抱けたかもしれないが

残念ながらそうはならなかった


だからそれはおそらく

あっても無くても変わらない

ただ同じ結末を迎えるだけ