清掃員を始めた頃は
ワンボックスカーに乗り合わせて
現場に向かうのが当たり前で
職長と呼ばれる社員にもよるけれど
作業が早く終われば時給稼ぎに車内で
待機させてくれる人も居て
どうせ早く事務所へ戻っても
社員も定時までは帰れないからと
よくサボったものだけれど
何もないなら早く帰りたい気持ちと
少しでも時給を稼ぎたい気持ちが交錯して
なかなか落ち着かなかった
どちらにしても良いことはある
待機時間が長くなるほど時給は稼げ
早く戻ってもバイトはすぐに帰れるから
どちらも嬉しい訳で
そんな贅沢な日ならどちらでも幸せだった
いつも時間に追われていたものだから
その心のゆとりがあるだけで気が楽になった
幸福とは何かなんて
あの頃は考えてはいなかった
幸運と不運の繰り返しで
今日は今はどっちなのか
それしか感じていなかった
自分でどうにか
出来るなんて思ってないから
その日その場で起きる出来事に
一喜一憂するだけ
ただ何年も繰り返す内に
変わるものと変わらないものの違いに気づき
楽になる方へと流れる側と
方にハマる側とに別れはじめ
流れる側からすると
意固地になって息苦しい場所に
留まり続ける人達との間に溝が出来て
ある時から切り捨てた
最初は話す事を止めた
作業の指示以外の雑談を止めると
案外と気持ちが楽になった
振り返ると違う感覚を
シャットアウトする事で
処理する情報量が
減ったからではないかと思う
作業の進め方に対して
どうしても納得が行かず
でも立場は下だから口にはしない
けれどもその蟠りを抱えながら
楽しく雑談する気にもなれず
ただ黙り続けていたら何も困る事も無く
むしろ気が楽なのだから気に入った
当然ハブられはするけれど
一人現場を任される機会が多くなり
大規模な建築現場などの休憩所では
知らない作業員の中で
一人で心細くもなったけれど
作業の進め方を自分で決められるという
特権が棚ぼたで手に入り
思った通りに進めるだけで
他業種の作業員達からの信頼を得られ
一人きりで過ごす休憩所での時間も
次第に心地良くなっていった
他社の他業種の作業員達が
雑魚寝するような場所でだから
あえて誰かに話しかけられる事も無い
黙ってスポーツ新聞でも読んで
その内寝てしまうだけ
たったそれだけの自由が救いだった
狭苦しい車内より
大勢いるとはいえ休憩施設は広く
人口密度も低く何より
会話を求められないのが良かった
仕事とそれ以外を分けられないから
どちらかで納得出来なかったりすると
両方で全否定するのが悪い癖で
とにかく嫌いになってしまうと
顔も見たくなくなるのだから大変で
感覚に支配されているから
理性では無視するくらいでしか抑えられず
本当は近づきたくもないのだから
離れられないのなら一層のこと
気の合わない人達からは
ハブられているくらいがちょうど良い
孤独耐性があると
そういう時には便利で
子供の頃の実家暮らしでは
ずっとそうしていたのだから
なおさら違和感も無い
一人になるのが幸せでは無くて
一人にならなければ落ち着かない
誰かといると気を抜けないから
次第に疲れが溜まって
孤独へ逃げ込んで癒やされる
言わば熊の冬眠みたいなものかもしれない
建築現場とは
仕上がれば解散して
また別の現場へ送られるから
定期的に出勤場所が入れ替わる
その変化が性に合っていた
一処に腰を落ち着くよりも
同じような環境でも別の場所
現場によって行き先が変わるから
生活習慣もそれに合わせて
少し変えなければならないという
その変化が好きだった
毎日同じ人達と
一緒に車に乗って現場を回るより
依頼された作業を
自分で進め方を考えて
予定通り出来たり出来なかったりを
繰り返す事が楽しかった
依頼内容を直接
現場監督から聞くのと
バイト先の社員を挟んで聞くのとでは
まったく伝わって来る内容が違い
そこに進め方の問題や状況判断ミスなどの
インシデントが内在しているから
仲介役を挟むと
大抵ろくでもない事が起きる
その点現場へ行き
監督から直接指示を貰うと
正確な締切りが分かり
そこから逆算して
一日の作業量を割り出して
実行してペースを測ると
ゆとりがあるなら初日から楽だし
キツければどこかで増員手配も
早めに手配出来るから気も楽
この初手を
大概の仲介役は間違うから
ろくでもない状況へと巻き込まれるのを
一人になって理解してからは
余計に一人作業が好きになった
はじめから無理難題なら
その時点で断る事も出来る
確信は無くても出来そうだと思えば
やりながら調整も出来るのだから
どちらにしても阿呆みたいな
スケジュールにはならなかった
自分の上司が頭が悪い事に
気づいてしまうともう辛くて
終いには仕事を受ける事自体が
トラブルなのだと気づいた時には
絶望してしまった
型に収まり好きには
徹夜が続く事も勲章であり
むしろそれに耐える事が強みなのだから
やり方や考え方を変えるなど
もっての外だったのかもしれない
そんな環境を経験したせいか
無駄に早く出勤する人や
徹夜好きな人にはまともな人がいないと
思い込んでしまっている