二十代前半のある年末

その時のバイト先の景気が良かったらしく

ボーナスだと言って十万円が支給され

三日もしない内に使い切り



自分にとって十万円とは

大金ではあったけれど

使う切るのに時間は掛からないのだと

思い知った時に少し怖くなった



自分を満たす為に

一体どれだけ稼がなければならないのか

普通という生活をする為に

どれだけの時間を労しなければ

手に入らないのだろうと考えると

無限の体力があったとしても

とても無理なように思えて諦めた



テレビの中で活躍する人達は

有り余るほどの富を手にしてさえも

24時間以上働き続けていて

とても自分には無理だと思い知り



その頃から幸せに対する

憧れを抱かなくなっていた

むしろあらゆる欲求を抑えつけて

心の防潮堤を超えて来た

強い欲求だけに絞って対応する事で

出来るだけ生活経費を抑えては

騙し騙し生きる事に慣れてしまい



それしか出来ない現実の中では

案外とその抑圧と仲良くなれていた



今振り返ると 

退屈だったという記憶は無い

週休制だったし

身体を毎日限界まで酷使しては

休日に生き返る為に眠った



そんな環境での娯楽は

テレビはもちろんあったけれど

レンタルビデオやCDなども

かなり抑制的に借りていたから

百円レンタルが始まった頃は

あれもこれもそれもと欲に溺れて

寝不足になりながらも

何とか出勤していた



休むとその分

給料が減るのだから

呼ばれる時は体調など関係ない

うんすん言わずに働いた



あの環境で無ければ

おそらく今でも貯金などせず

増してや資産運用など

思いつきもしなかったはず



欲しい物は大概手に入らない

それでもその生活を投げ出さなかったのは

一人暮らしという環境が気に入っていたから

実家に戻りたいと思った事も無いのだから

それほど辛いとは感じていなかったのか 

無意識に感覚を麻痺させていたのか



その頃から家賃は変わらず

同額で住める物件が見つかると引越し

お金を使わずに快適を手に入れる術を知り

青天の霹靂のような臨時収入があると

貯金をするという知恵を得た事で

お金が無くても物を入れ替えるだけでも

手に入る物がある事を知ったからか



自然の流れで

セカンドハンド商品を好み

ただ同然で買取り

また同じ用途のグレードの

高そうな物を見つけると

無料同然で買い取るという

わらしべ作戦を始めた



しばらくすると

レンタルビデオのように

向こうの方から便利なサービスを

勝手に提供してくれる事業者が

テレビコマーシャルなどで

目立つように宣伝してくれるものだから

より一層ランニングコストを変えずに

様々な便利サービスやグッズを手に出来て

自動で快適な生活が転がり込んで来た



真夏の酷暑や真冬の極寒ですら

待てばその内快適な春や秋が来るように

社会すらも都合良く変わって行くものなのだ

その前提条件を利用して

より快適にする為に知恵を絞り

自ら何かしらの行動を合わせると

余計に暮らしやすくなるのだから面白く



人口減少によって

人手が不足し始めると

働き口が無くなるという不安が消え

その変化をあざとく感じたのか

それからは職場を転々として

給料を貰いながら旅する気分を満喫



とうとう快適を手にするのに

お金を支払うどころか支払われるようになり

その頃には生きるのは

チョロいと思い始める始末



十万円とは

今でも大金だけれど

秒で使い切れる



それに対してその金額を稼ぐには

あいも変わらずあくせく働かなければならない

けれども今はお金を使うと

ポイントというアイテムとして

カムバックして来るのだから

何とも不思議な世の中で



どうせ自分の金じゃ無いからと

気楽に株式投資に使って見ればあら不思議

幾ばくかでも増えているから訳が分からない

目減りする事もあるけれど

自分の物じゃ無いからという気楽さが

ゆとりを齎して忘れていたら

その内増えているのだから面白いもので



そんなゆとりには手をつけず

転職で行く先々で上下する給料

生活費は変えないけれど

20万円振り込まれると余さず使い

それが30万円でも変わらない



振り返ると 

手取りが増えると使う金額も増えるから

別枠の資産の自己資金はそのまま

もし少しでも投資金額に回していたら

かなり違っていたはずだけれど

それを手に出来ないところがまた

自分らしくて笑える