職業は清掃員

主に階段やトイレ掃除をしている

その作業をするのに

特別必要な教養は無い



小学生にだって出来るはずで

実際に幼い頃は夏休みになると

実家の牛小屋の掃除が

当たり前の役割として与えられ

やらなければ怒られるからと

仕方無くやっている内に

作業前と後で変わる景色が面白くなり

それほど苦にはならなくなった



午前中は放牧と掃除

夕方は餌やりが日課だった



根底にその時の感覚があって

バイトで始めただけの掃除の作業は

それほど嫌では無かった

むしろ初日に窓ガラスの掃除をさせられて

あまりにも簡単に綺麗になるものだから

驚いたと共に楽しくなり

あの感動が今も働く原動力になっている



建築現場の掃除から

そこらのオフィスやら店舗の掃除

外壁やら床のワックスがけと

身体を動かす事が好きなのもあってか

汚いものが綺麗なるという

そんな単純な変化が気持ち良くて



尚且つ何かを覚えたり

練習したりする事も少ないから

家の手伝いの延長のような感覚で

のんべんだらりと

続けていられるから続いている



特にここ数年は

毎日同じ場所を同じ時間をかけて

掃除をするという繰り返しで

慣れきった作業を散歩でもするように

頭を空っぽにしてでも出来るから

親にお小言を言われる心配もないから 

あの頃よりも心が軽い



とにかく努力をしたくないから

小難しい事や練習する事が無くて

人間関係も希薄な

職場が性に合っている



実家にいた頃も

あまり家族と話す事もなく

ただ子供という役割として

その場に居ただけだからなのか

特別職場に人間関係を求めず

共有する事もアップデートも無いから

まるで実家で暮らしている気分



あの頃は実家が職場だったから

気持ちが開放される事が無くて

息を詰まられながら暮らしていたけれど

今は職場だから

休日は解放されるのだから

実家よりも快適に過ごしやすい



そんな環境が

あの頃の気持ちを呼び醒ますのか

最近はどうも子供帰りしているようで

あの頃出来なかった事をするだけで

幸福感に包まれるのだから安上がりで



自分の意志とは関係なく

田舎へ移住したものだから

バスに乗ったり

地下鉄に乗ったり

近所を散歩するという

山と畑に囲まれた里山を歩きながら

憧れた都会での暮らしを実現し



もしもあの時移住しなければ

どんな暮らしをしただろうかと

何度も想像した

あのパラレルな世界に

迷い込んだかのような現実



気づきさえすれば案外と

願った事は叶うという法則を発見して

毎日が夢の中にいるようで

もちろん人生には失敗しているのだけれど

子供の頃に行きたかった場所には

知らない内に辿り着けたようで



そんなお願いをした事すら

忘れてしまってしまっていたのに

幼心に連れ戻されて自覚すると

今でも変わらずに嬉しくなるもので



大人になりたいとは

願った事も無いからか

なれなくても構いやしない

ただ大人にならないと

生きられないから仕方無しに

そのフリをしてみたけれど

偽物にすらなれず仕舞い



50歳を前にして

今更変わりやしないと開き直ったら

少し落ち着いて状況を確認出来るようになり

いつの間にか大人になれなくても

不自由なく暮らせる世の中へと様変わり

もちろん勝手な思い込みだけど



何かよう分からんけど

イケると思えれば掌返しで

受け容れられるのが

馬鹿な子供の良いところだから

もうこのままで良いと

思えてしまうとあとは簡単

悩み事なんて自然に消えてしまう



それどころか

むしろもう一度あの頃に

戻ろうとすら思う始末

けれども物理的には無理だから

仕方無くあの頃愛用していた

ブリーフパンツに似た

パンツを買って履いている



ちょっと洒落た

ローライズのブリーフパンツを

毎朝履く度に身体も若返らないものかと

鏡を見ながらちょっと思うのだから

大人になるのは

やっぱり無理みたいだから

星屑の絨毯の上をウサギのように

跳び回りながら遊んで暮らそうと思う



そんな風に

思えているこの日々が

有り難い有り難い