月給18万円前後

そんな人間の住む部屋は狭い



だからこそ

その空間を効率良く

利用したいのだけれど

なぜか入居前の内見した際

何の役にも立たないであろう

廊下のあるこの部屋に決めた



なぜかしら

そのデッドスペースが

気に入ってしまった



長さ5、6メーター

幅およそ70センチの廊下には

トイレの扉しか無いけれど

玄関からは部屋の中が見えず

しかも窓の光が差し込む

その光景を見た時に

気持ちを持っていかれた



もう四年以上住み続け

殺風景だからといつの頃からか

映画のポスターを飾っている



人生でたった一度だけ購入した

三十年ほど前の外国映画のポスターを

後生大事に未だに所有し続けて

いつか観た動画で金持ちの家の廊下には

絵画が飾ってあったからと

それを真似て飾り始めたのがきっかけ



それがお気に入りで

なぜ何年もの間この位置に置く

この発想が出て来なかったのかが

不思議で堪らず



このポスターはこの場所に

飾る為に購入したのではないかとすら

思いながら過ごしていたら

なんとその映画の主演俳優が

日本国内をひとり舞台で巡る事を知り



より一層 

運命的だと思い込み

普段は演劇など観やしないのに

チケットを即決購入



その俳優を好きかと言われると

そうでも無いのだけれど



その映画のポスターを購入したのは

その頃のバイト仲間がその映画を絶賛し

そのポスターを額に入れて

部屋に飾っているという話に興味を唆られ

その映画が完全版と称して

劇場で再上映された際に

そのバイト仲間を真似て購入した



映画そのものよりも

映画のポスターを

額に入れて飾るというのが

当時の私の中では新鮮な感覚で

わざわざ額縁店で

ポスター用の額縁を購入したものだから

その時の感動が忘れられずに

今でも飾り続けているのかもしれない



主人公が孤独な人間だった事も

親近感を抱いたきっかけになった



毎日を

ただ生きていた頃の憧れ

あんな人生も悪くは無いと

本気で思ってもいた



20歳の頃などは

ノストラダムスの予言を

半信半疑でも信じていたものだから

どうせ死ぬなら頑張る事もないと

努力をしない理由にしながら

それまでを過ごしていて



あと2、3年で

世界が滅亡しなければ

その先の人生は地獄になるだけと焦り

半信半疑の意味合いが

半身半願へと変わり

1999年になってからは

事ある毎にバルスバルスバルスと

唱えていたくらいの阿保だった



年金も未納を続けて

老後の年金生活も絶たれ

皆で死ぬなら仕方が無いと

半分本気で思っていた



今もこうして

生きているのだから

予言の結果は明白



けれど大昔の予言だから

誤差が有るのかもしれないと

その後の二年ほど

恐怖の大王を待ち続けて

ようやく諦めた頃

その当時のバイト先を解雇され

八寒地獄送りにされた



自分で振り返っても

阿呆だと思う



中学高校を通して

世界滅亡を言い訳にしては

何の努力もせずに

周りに流されるまま

少しでも楽な方を選択して

フリーターとなり

夢も希望も無く生きていたものだから

ノストラダムスに騙された事を

受け容れてからは辛かった



もうすぐ24歳という時に

バイトを解雇されて

仕方無しに他のバイト先を探す際

自分に出来る事が思い浮かばず

土産屋の販売員しか経験が無いからと

同業他社で面接を受けても断られ



その頃から映画はよく観ていたから

レンタルビデオ店で働こうと面接に行くと

雇ってくれると言うから

喜んだのも束の間

コミュ障の自覚が無かったせいか

初出勤の日に怖気づいてしまい 

結局そのまま行けず仕舞い



エッ俺って

こんな奴だったのかと

その時初めて知った



それでも何かしなければ

生活費が底をついてしまう

親に頼れば良いやという思いと

怒られるのも嫌だという

恐怖の板挟みになりながらも

これが恐怖の大王なのかと

考えるくらいの余裕はあった



そんな救いようの無い時も

あの映画のポスターを眺めながら

呑気に駄目な映画キャラクターみたいだと

何となくそう思うと気が楽になった



前回採用された際に

自分の弱さを知ったからなのか

その次に採用してくれた会社へは

考えたら怖くなるからと

何も考えずにとりあえず行ってしまえと

飛び込んでみたらやっぱり地獄だった



それでもこうして

今も生きているのだから

恐怖の大王如きでは

自分を滅せられないらしいと

事ある毎に思い返すきっかけが

この映画のポスター



捨てられないのは

そんな個人的な思い出が詰まった

代物だからなのかもしれない

案外と意識してみると

ポスターを一つとっても

思い出はたくさんあるもので



それが今年

住み慣れた部屋の

お気に入りの廊下という場所という

ベストポジションへと移動して

模様替えをしたお陰なのか

その外国人主演俳優の演技を

直接観られるのだから心が踊る



何故か今年は

確定申告の還付金が 

1ヶ月分の給料くらいあったから 

無理する事も無く

観劇に出掛けられるのだから 

これもまた運命的で感激しながら

待ち遠しくなる今日この頃