一人で過ごす事に
なんの違和感も無いから
そこに寂しさという感覚も無い
自分の中のどの感覚が寂しさなのかが
分からないから
自覚が出来ないのかもしれない
田舎の幼い少年時代ですら
遊び相手が欲しいと願った記憶も無い
5つ年上の兄に誘われるまま遊んだり
その姿や行動を真似たりしたけれど
居なければいないで違和感は無かった
自分のお気に入りは
独占したいから
保育園の遊び道具を
他の園児といつも取り合い
それを繰り返す内に面倒になり
また他のお気に入りを探した
要は他人と違うものを
好きになれれば闘う必要が無い
幼心にそう感じたのか
その後流行りには鈍感になった
ただ全く知らないと
会話にすら参加出来なくなり
困る事も多々あったから
適当にチェックして
会話の流れを止めないくらいには
周りに合わせていた
学校のクラスメイトが
面倒だと自覚するまでには
そう時間は掛からなかったけれど
転校生という事もあって
周りがいろいろ気を遣ってくれて
話し掛けて来てくれるのも
正直鬱陶しく思い
校舎の一人になれる場所で過ごしていた
ザワザワと騒がしいのが
苦手だから図書室や音楽室など
誰も居ない静かな教室が好きだった
そのせいか本は読まないけれど
本棚にところ狭しと並ぶその光景が好きで
学校から卒業してからの暇つぶしは
本屋やレンタルビデオ店へと変わった
貧乏という事もあって
その背表紙やタイトルから連想する事を
頭に浮かべながら店内を散歩するのが好きで
そのまま公園や河川敷などで
その続きを考えたりしながら一日を過ごす
なんとも安上がりな趣味だった
情報は欲しいけれど
こちらの気持ちは知られたくない
欲しいものが相手に知られてしまうと
それを餌に取引きを持ち掛けられて
駄目だと分かっていても欲に負けては
ついつい引き受けてしまい後悔する
かなり幼い頃からその癖はあった
なにせ母親が最初の取引き相手だったから
大事にしていた玩具を取り上げられて
返して欲しければ言う事を聞けというのが
どうにも我慢ならず
だけれど返して欲しくて屈服し
その悔しさからどうにかしなければと
考えに考えた結果
気持ちを悟らせなければ良いという
結論に至った
それから大して興味も無い物を
あたかも大切にしているかのように
母親の前で取り扱っては勘違いさせて
激怒ぷんぷんの時に生贄に捧げて
本当に大切なものを
守るという習慣が出来上がり
そのせいか今では
家族に宇宙人扱いされる始末
思いもよらず
上手く行き過ぎてしまった
相手を騙す為には
自分を騙すのが一番
しかし何が本当に好きなのかが
分からなくなってしまうと
結局は自分が苦しんでしまう
思春期から三十代半ばくらいまでは
全く自分の事が分からなくなってしまった
他者を騙す事に慣れて
上手くいった経験と
煙草を吸い始めて
大概の不安や悩み事は一服すると
簡単に忘れてしまったから
本心も煙のように消えてしまい
取引き条件を決められず
しかも貧乏だから生活費という
厳然たる境界線は隠しきれず
常に足元を見られ
子供の頃のように上手い対抗策を
見つけられずに
ただ煙草の齎す快楽に縋った
しかし若さがあった
丈夫な体もあったから
何とかその蜘蛛の糸を手繰り
生き残る事は出来た
禁煙を期に
自分の幸福感を探した
そうは言っても
始めた頃は手探りで
何を探せば良いのかも分からず
取りあえずポジティブなイメージを
ひたすら深堀りして行った
生活環境が目まぐるしく変わり続け
一つの職場に長く居続ける事が出来なくなり
その度に現実に引き戻されて
何とかもっと集中して幸福感を
探せないものかと悩みもした
けれどもいつの頃か
そんな落ち着かない生活を振り返り
不意に気がついた
コロコロと生活環境を
目まぐるしく変える事が
楽しかったのだ
旅行に行くような感覚で
職場を変える
フリーターの清掃作業員だから
募集はどこかしらあって
資格を取ってからは
応募すれば取りあえず雇っては貰え
それが当たり前に思えて
なおさら動き続けて今に至る
同業他社なのだから
どこへ行ってもやる事も
人間関係も同じだから
慣れてしまえば
どこでも関係無い
ただ作業をする場所が変わると
見える景色が変わり
通勤路や交通手段
掃除する場所が商業施設やオフィス
歓楽街の雑居ビルや病院と
一つの街にも様々な建物があり
その中を無料で観光出来るのが楽しく
人通りの多い場所が好きなのだと
自覚してからは
探しものは結構前に見つけていた事にも
気づいて何だよって思った
好きという気持ちを
何かしら一つ気がついてみると
オセロの角を取って
一列全部が引っくり返る感じで
あれもこれもそれも
好きなものが沢山あった
たとえば自宅
そこにある物すべてに
思い出があり
もう使わないとは思っても
捨てられないその気持ちが新鮮で
過去を振り返る事が趣味になり
ある時突然に
引っ越しを余儀なくされ
それまでよりも狭い部屋へと
引っ越す為にと物を捨て
より厳選された好きな物に囲まれて
その部屋がお気に入りになり
断捨離という言葉に出会い
益々物を捨て続けては
良いと思った物を買い足して
部屋の中が自分の感覚に染まり
今では何か飾りたいけれど
ただ飾るだけのインテリアは
邪魔くさいからと
お気に入りの洋服を飾っている
これを着たいと思って
購入した洋服をクローゼットに
隠してしまうのは勿体ない
元々は洋服屋さんに飾ってあったのだから
自宅に飾ったって構いやしない
あまり被りやしない帽子も
普段掛けている眼鏡も飾ると
素敵なインテリア
運気の上がる花柄のシャツも
あえて飾っているから
今後益々良い事だらけになるに違いない
好き嫌いは体型にも言えて
なりたい体型に近づく為にと
スポーツクラブに通い
筋トレとストレッチに励み
なぜか春先に太る謎が冬場の雪道では
自転車に乗れないせいだと思い至り
今後はバイクも漕ぐ事を決めた
ボデイメイクは自己満だから
誰かと比べても意味が無い
自分自身の理想の体型を
自分自身で作り上げなければならない
それは畑の作物を育てるように
試行錯誤の連続で
トレーニングだけでは足りず
食事やサプリメントなども取り入れて
体重が減ったり
狙った部位に筋肉がついて
体型や体重が変わっていくのは
堪らなく楽しいく
その移り変わる身体を
一人裸になって鏡でチェック
その鏡に映る
自分自身の体型すらインテリア
自らの体を
極上の彫刻にすべく
気だるい筋トレを繰り返す
あくまで自己満ではあるけれど
変わって行くその様は面白い
一人でもとにかく忙しい
年令を重ねると体型も変わりやすく
昨今の物価高で食料品だって
より安くでも健康的な物を
スーパーマーケットで探し回り
今ではほとんどコンビニへは行かず
でも時間も掛けたくないからと
日頃から偵察を怠らない
いつの間にかあの怠惰な少年も
少ない収入で最大限の幸福を手に入れながら
自分の理想へ向けて走り続けている
一人で過ごすという特技と
人間関係を上手く築けないという
特性が相まってこうなった
今更誰かと暮らしたいとは思わないが
この人でなしな感覚からすると
相手が自宅に居るという事は
ある意味フィギュアのような感じで
コミュニケーションは必要最低限
その存在感だけで充分安らぐのだから
鏡に映る自分同様に
お気に入りのインテリアに
なり得る事が大切な要素だけれど
素敵な異性は多いが
この感覚を受け容れてくれる人は
おそらくいないだろう
自分でも人の姿をした
エイリアンなのではないかと疑い
少し酔いながら
いやいや私は自己満世界の
インテリアンだと駄洒落て笑う