正直に言葉にすると

自分の噂話を他人にして欲しくない

それはどういった感情なのか

自分でもよく分からない



大概の人には

興味を持たないばかりか

存在感の強い人なら

その殆どを嫌うせいなのか



言葉を選ばずに言えば

お前に俺の何が分かんの?



コイツ俺の後輩だから

あんまりイジメると怒るよ

なんて言う

先輩も居たっけか



いや俺

先輩の事嫌いですとは言えず

ただ黙っていた



田舎とは人間関係の牢獄だから

回り回って家族の耳に入りでもすると

何をされるのか怖いから

ずっと黙ってやり過ごす事に慣れて

フリーターとなってからも

その習慣がなかなか抜けずに



当時憧れていた

年上の会社の事務員から

一番嫌いな社員と

仲良く見えると言われて

凄く驚いたのを覚えている



田舎の小学校では

少し運動が出来るとか頭が良いなどという

噂はあっという間に知れ渡り

逆に何か失敗でもしようものなら

次の日には誰もが知っている



特に失敗なんて

指摘もされたく無いから

何でこの人が知っているのかが

最初は分からなくて

それ自体も怖くて

ただただ怖れ慄いていた



そういった田舎社会の

情報網から抜け出したくて

都会暮らしを選んだのに

知らず知らずのうちに

自分の本心を隠す習慣が抜けずに

好きな人にすら勘違いされ

思いの外ガッカリしてしまった



その年上の事務員は

こんな場末の清掃会社には

およそ似つかわしくない

とても綺麗な女性で

しかもただ綺麗なだけでは無く

凄くお洒落な人だった



おそらく誰もが

彼女を見れば綺麗な人だと思うだろう



そんな人が

なぜこんな場所にいるのかと

当時から不思議で

嫌いな社員と仲が良くて

その社員から私の話を聞いていたらしく

その内に親しく

話し掛けてくれるようになった



振り返れば

恋心だったのだろうけれど

既婚者であったし

何よりフリーターの立場からすると

上役にあたる嫌いな社員の

仲間として見ていたから

意識的に近づかないようにしていた



そうしている内に

年上だからある意味先輩風を吹かせて

馴れ馴れしく話し掛けていたのが

いつの頃からか丁寧語に変わり

結局最後まで

その言葉使いのままだった



何があった訳ではない

甘酸っぱい恋物語も無ければ

ドロドロの不倫物語に

発展したりもしなかったが

若いバイトの女の子が

入社する度にどんな人だろうと

視線を向けるだけで

凄い怖い目で睨まれた



始めてその人を見る時に

可愛いかなと見ているだけで

凄い怖い顔で睨まれ

その感情は何ですかとう問いが

心の中で何度か湧き上がっては消えた



見た目の繊細さとは裏腹に

下世話な話にも臆せず入り込み

その頃風俗に通い詰めていた私を

その嫌いな社員を筆頭に

周りの同僚達に

よく揶揄われたけれど

そんな話の時は笑っていた



ある時真顔で

風俗のサービスはどんな感じかと

普通に質問されて

どぎまぎさせられた



そういった女性に対して

恋心は抱かないものかなど

真顔で根掘り葉掘り聞かれて

答えていく内にテンションが上がり

そもそも恋心が無いのだと言うと

どういう事?ってなって次の日から

人でなし呼ばわりされた



風俗が好きなのは

ある意味人扱いされずに

システマチックだから

気楽にイケるんですと言うと

エッいきなり下ネタ?と

楽しそうに笑ってた



バイトの女性を見るのは駄目で

風俗に通うのは何とも思わないとは 

何と融通の効く性格なのかと

まさしくこの人が理想の女性だと

勝手に思い込み

いつの頃からか恋心を超えて

信仰するようになった



あれから幾年月

結局そのバイト先も辞めて

会えなくなってからも

彼女以上に憧れを抱ける女性には

お目にかかれていない



あの頃の憧れがあるから

スタイル維持の為の筋トレも続くし

お洒落になろうという努力も続け

何とか当時の彼女のように

格好良くなりたいと

今でも願い続けている



風俗通いは許せて 

知ってる女の子に興味を持つと

怖い顔をする

あの憧れた人も田舎の出身だった



おそらく高校生の頃には

持て囃されたに違いないその容姿を

疎ましく思った女子達によって

あらぬ噂をばら撒かれ 

嫌な思いをたくさんしたであろう事は

似たような環境で過ごした経験から 

容易に想像が出来る



男ばかりの職場で

日中は全員出払って事務所で

一人きりになれて

それが好きだと言っていた

彼女はおそらく運命の人だった



今でもあの人の姿や

その価値観を持っている女性を

探し続けている

だって見た目が好みで

風俗行っても怒らないなんて

最高じゃんね



そんな異性には

その後一人も出会えていない

だからこそ運命だと思う訳だけれど

それではこの先の楽しみが無くなるから

この思い出をどう捉えようかと

迷いながら街行く人を眺めていると

案外と綺麗な人が多い事に気づき



結局

お洒落で好みのタイプなら

誰でも良いのではと思い

だから風俗にハマるのねと

妙に一人で納得してしまった



自分が嫌ったあの人々は

本質を見抜いている人達だった

なるほど確かに私は人でなし

それでも自分が嫌いじゃないのは 

あの頃憧れた彼女を目指して

未だに夢を見ているからだろうか



自分でもよく分からないから

この気持ちを誰かの価値観で語られるのが

嫌いなのかもしれない