人嫌いにとって 

他者へ感謝をするのは

絶望的な苦行だ



しかしその気持ちを

まったく持っていない訳でも無い



ただ無意識に

何か都合の良い事が起きると

ラッキーッ!の一言で

片付けてしまうのが悪い癖



分かってはいる

たとえ突然に雨が降り出しても

常に折りたたみ傘を持ち歩いているし

何なら鞄にかけるカバーまで

持ち歩いているのだから

何も困る事が無い



むしろこの時の為に

いつも煩わしい思いをしながら

持ち歩いているのだからと

その苦労が報われたと

嬉しくなってニヤッと喜び勇んで

カバーを掛けて傘をさす



この出来事一つとって考えても

誰に感謝をすれば良いのやら分からない



持ち歩いているのも

準備を整えたのも自分なのだから

もちろん過去の自分に感謝する

おそらくそれが阿呆な人で

そのアイデアや誰かの真似や

もしかすると教えてくれた

誰かがいたかもしれないのだから

感謝をするべき人は

思った以上にたくさんいるのだろう



そうやって反省をして

どうすれば恩返しが出来るだろうと

旅の移動中

暇つぶしに思案する



はじめて訪れた街で

右も左も分からないから

駅前の案内板を見ていると

地元のテレビ局の職員に

歯について街角インタビューを

させて欲しいと声をかけられ



いつもなら

運寸言わず断るところだけれど

思わず了承してしまい

カメラを向けられながら

歯の健康について質問をされ



自分がいつか

歯科衛生士から教えられた

歯磨き方法を答えた



それを改めて

ランチを食べながら思い出し

こういう連なりが廻り廻って

いつか誰かの歯の健康に繋がるのなら

あの気まぐれに受けたインタビューが

いつか誰かに受けた恩に対する

お返しになるかもしれないと思い



感謝なんて

意識的にしなくても

そのうち何らかの偶然が起きて

勝手に受け取り手の誰かが

不意に社会貢献する為のアイデアを 

思いつくヒントにでも

するかもしれないのだから



求められたら神様から

はじめてのお使いを

頼まれたとでも思いながら

無理の無い範囲で

出来る事をただ何気なく

提供すれば良いのかもしれない