寒くなって来たので

踝が隠れるくらいの靴下を買おうと

店先に靴下がたくさん並ぶ

店舗へ何も考えずに立ち寄り



メンズサイズはどこかと探し当て

くるくる回る陳列用の物干しのような

棚を良いだけ物色してから

3足1000円を2セット購入するという

私にとっては大盤振る舞い



この難しい決断を

意外なほどあっさりと乗り越えて

レジはどこかと周りを見回すと

女性用の下着に囲まれていた



嘘だろ

靴下屋さんじゃないの?



こういう事って気づくと

急に恥ずかしくなるから不思議だが

もう6足もの靴下を

鷲掴んでいるのだから

今更元の棚に戻すのはもう無理だ



いや無理では無い

何食わぬ顔で戻せば良い

近所のスーパーの2階の衣服売り場では

財布を忘れて

何度も成功したその作戦を

今ここで繰り返すだけで良い



しかし何となく

周りの雰囲気がそれを許さない

いやそんな気がするだけで

誰も私の事など見てはいない



変な男が一人でいるから

気にはしているかもしれないが

いやいや変じゃねぇし

少なくともこちらに分かりやすく

冷たい視線を向けて来る人はいないが


鏡を見るとトレンチコート

寄りによってその出で立ちって

弱り目に祟り目とはこの事かと思い知り

その頃にはもう頭の中が大パニック



よーし分かったと

覚悟を決めて

サッサと支払いを済ませて

店を出れば良いのだ



レジはどこだ!

あった!

Oh no!3人も並んでるよッ

いや一人減った

よしそこへ並ぼうと

女性客の後ろに行くと

エッ見たいな視線を向けられ

たじろぐ私



いやいやここで

引く訳にも行かないからと

列に並んでますけど何か?

みたいな顔でスンとしていたら

女性の店員さんに

お客様!と声を掛けられビクッとなり



いやいや顔には出さないぞと

硬い表情を崩さずに

何か御用ですか?みたいに振り向くと

申し訳ございませんと

隣の通路に移動してくれというから

行くと両サイドにブラジャーが

所狭しとデコレーションされた通路



前後に女性客

左右をブラジャーに囲まれ

気持ち中では絶体絶命



表情どころじゃない

いくら硬くしてもおそらく赤い

いやいやいや

もう良い年齢なのだから

硬いというのは表情の話ですよ

下半身じゃないですよなんて思いながら

朝の自分がトレンチコートをチョイスした事を

今度は褒め称えながら

アホな独り言を頭の中で繰り返す始末



この独り言が

もしも口に出ていたとしたらと

思うともう心が

溶けてしまいそうだった



疲れ切った私に

レジカウンターの向こうから

女性店員がどうぞと呼んだ

もう間違い無い

ここは女性の下着を扱うお店



しかしもう支払うだけなのだ

何も恥ずかしくはない

堂々と払ってやろうじゃないかと

心の中で意気込んでカウンターに 

6足の靴下を置いて

お願いしますという声を絞り出した



ようやく終わった

あとはスマホを翳すだけ

その油断を突くように

カウンターの中の女性店員の隣に

もう一人女性店員が現れた



しかしこちらはもう

少し余裕が生まれ

今更二人になろうと何が出来ると言うのかと

よく分からない大魔王気分で待っていると



その二人の店員同士が

後ろを向いてコソコソ話し始め

エッ何?と

急に不安が蘇り



いや下着屋さんだったなんて

知らなかったんです許してくだいと

何も悪くもないのに

これまた心の中で土下座をする始末



おそらく時間にして

5分もかかってもいなかったが

その間に私の心臓は鼠のそれの

100万倍は収縮運動を繰り返したに

違い無く疲れ果ててしまった



仕事中はずっと

サージカルマスクをしているのに

なぜ今外して店にいるのかと

自身を責めても何にもならないし

マスクをしてトレンチコートって

それはそれでアウトでしょ!などと

ひとり突っ込みを入れ



感覚的にはスンとした

能面のような表情を通したが

周りからどう見えていたか

定かでは無いが

何とか無事に店を出る事は出来た



よく考えると

スーパーの2階にある

衣服売り場のレジの周りも

女性用の下着で囲まれていたけれど

不意に気づくと

こうも心が乱されるらしい



やっぱり心の準備って

大切なんだって事を学んだって

馬鹿なのかな?と振り返る