人生とはおそらく
人間が創り出すものの中で
最も長い時間のかかる
厄介な作業だろうと思う
赤子泣いても蓋取るなとは
釜でご飯を炊く時の決め台詞
はじめちょろちょろ中ぱっぱ
じゅうじゅう吹いたら火を引いて
ひと握りの藁燃やしの後に続く
決め台詞らしいのだけれど
それを参考にすると
鉄は熱い内に打つことで
思い通りの形に出来るけれど
人とは熱い内に蓋を取ると
不味い事になるから止めなさいなどと
昔の人から言われている気もする
たしかにおぎゃーと
生まれ落ちた時からその温もりで
周りの大人達を虜にしては
自らを育てさせるという
そんな小悪魔達が面倒に感じて
似ても焼いても食えないからと
レンチンする訳にも行かずに
罵詈雑言を冷水のように浴びせたり
地震や雷のようにゲンコツを落としては
無理やり火事場の馬鹿力を
目覚めさせても
その内に梨の礫になるのが落ち
赤子はとにかく観察して
求めているものを与え続ける
その内にチョロチョロと
動き回れるようになった事を喜び
時々ぱっぱとお説教して
子供が泣きついてくればサッと一歩引く
そんな繰り返しの日々が一番幸せ
そうしているうちに
一人で考える事を学んだら
ゲンコツでは無く
一握りのエッセンスを振りかけて
その背中を押せば良い
一人の人間として扱うなら
あとは泣いても喚いても見守るだけ
ただそれだけ
そんなナイスなご飯には
拘り抜いたカレーを合わせたい
材料を吟味し具材の大きさすらも
拘り抜いた大きさに切り分けて
じっくりコトコト煮込んだら
さぞかし唆る香りが漂うに違いない
親という作り手が
手探りでこだわり抜いた
自身の人生を
自我の目覚めと共に引き継ぎ
時には上蓋を
何度もノックしては
助けを乞うかもしれない
それも良いだろう
ただその蓋は
取らないほうが美味しい
カレーになるのだから
助けは違う誰かに求めよう
それが
華麗なる一族の作り方
加えるスパイスを集めて
調合するのが人生の醍醐味
隠し味はここぞという時にだけ
その背中へ
振りかけるエッセンス
無限にある組み合わせから
その一つに拘るのがお袋の味
時々ピリッとするそれは
案外と優しい辛さだったり