大魔王に喧嘩を売るなど
その場の作業員達からすると
自殺行為であり
あぁコイツやっちゃってるみたいな
ある種の珍獣でも見るかのように
他の作業員から遠ざけられたけれど
私の身に何も起こらないのが
不思議に思ったのか
徐々にそれまでの経緯を
話してくれるようになった
その人達の話を総合すると
その現場は駅舎だったけれど
その半世紀前に建てられた時から
勤務し続けている古株で
いくつもの受託会社を渡り歩き
いつの頃からか主任という
理由の分からない役職を授けられ
祀り上げられた結果
今に至ると三十年一緒に働き続けている
八十代の作業員の話が
一番信憑性の高い情報だった
お前の会社の社長と
うちの会社の社長はツーカーだから
すぐ解雇してやる
そう面と向かって言われて
私のハートに火が灯った
談合に近い関係の
入札業者同士なのだから
あながち嘘とも思えず
たじろぎもしたけれど
年齢を理由に
まともな作業をしなくて良いと
一人に認めてしまうと
八十代だけでも三人はいたし
他も大体が後期高齢者なのだから
全員まともな作業をしなくて良いという訳には
いかないのだから戦うしかなかった
幸い運営会社の方から
何も連絡が来なかったものだから
解雇にするというのは
彼女のハッタリだったようで
胸を撫で下ろし
それと同時に反撃を開始した
何も難しい事はない
その作業員の後をついて歩いただけ
一応名目は作業を教わる為という事だけれど
勤務時間中に何をしているのかを
確認しただけだ
見られて困る事があるのかと
焚きつけると
舐めんじゃないよぉ
こっちは五十年続けやってんだぁと
威勢良く控室を出て
五分後にはゼィゼィと苦しがり
座り込んでしまった
いやいやいや
これから掃除する階段を
登っただけなのに
さすがにそれは嘘だろうと
構わず黙っていると一言
帰ると言って
本当にそのまま帰ってしまった
その体調不良が
嘘か真かは分からなかったが
派遣元の担当者へは一応
体調が優れないと伝えてみたら
何かすごく嫌味を言われ
そしてまたそちらの会社の常務は
私の知り合いだと言われ
脅して黙らせようとするのは
この会社の流行りなのかと思った
一応歳も歳だから
あながち嘘でもない気もするし
第一に数時間掃除をしながら
歩き続けるのは
普通に大変な事だから
引退させたほうが良いとは
その担当者へ提案した
それほど苦しそうに見えたし
死んでからでは遅いと思ったからだが
その時はまったく
受け容れて貰えなかった