悲劇とはいつも突然起こる

どんなにネガティブな性格でも

青天の霹靂とは訪れるもの

たとえばそれは

不意の便意から始まったりもする


その時すぐトイレに

駆け込むことが出来さえすれば

何も問題はないのだが

現実が厳しいのは

今に始まったことでも無いから

そんな些細なトラブルで

心を乱したりはしないのが

大人というものと

おすまし顔で公衆トイレを探し回り


運良く多目的トイレの

洋式個室の扉が開いていたら

何の迷いもなく

飛び込むのは当たり前


鏡に映る表情とは裏腹に

土俵際に追い込まれた哀れな子羊は

一も二も無く

ズボンとパンツを下ろし

無心で便座に座る


それと同時の解放感を

予期して神様に礼を告げる

そんなピンチを乗り越えた時に

本当の悲劇とは起こるもので


踏ん張る直前に

尻がヌルヌルする

なぜ?


なぁにもう個室は確保しているのだ

ほんの数秒スッキリするのが遅れた所で

何も問題は無い

もういつでも出せるのだからと

ひょいと腰を上げて

便座を確かめると濡れている


便座が濡れる理由を

その刹那に考える


もう二十年以上も

清掃作業員として働いて来た

その経験を瞬く間に遡り

秒で結論に達して

その水分の色を確認したら

黄色かった


おそらく自分の前に

この個室を使用したのは男なのだ


けしからん輩はどこにでも居て

洋式便器へ便座も上げずに

立小便をする馬鹿野郎が

この世の中にはたくさんいる事を

長い清掃作業経験から熟知している


普段なら便座が小便で濡れていないか

確認してから座るのに

緊急事態だったせいなのか

土俵際の俵が出口付近で

踏みどど待っていたからなのか

便座の安全確認を怠り

どこの誰の小便かも分からない

濡れたその便座に座ってしまった

その事実に腹から声が漏れた


しかし尻からも

漏らす訳には行かず

心の整理よりも

生理現象を優先せざるを得ない

そんな状況に追いやられると

人はたいがい大悟する


感情を消し

悟りの境地へと旅立ち

体の中から老廃物と共に

悟りは一時の恥

悟らずは一生の恥という

無我の境地へとダイブして

そのまま濡れた便座へ座り直し

無事にスッキリ


そんなありゃありゃな自分に

辟易しながらいつも以上に念入りに

尻を拭いたという

まさに自分のケツを自分で拭いて

少しだけ成長出来た気がした


多目的トイレとは

そんな大人になりきれない

哀れな者達の

教室なのかもしれない