筋トレをする前に

体をほぐす意味でもひと汗かきたくて

十五分走りそのあと五分歩く


窓際に置かれていて

走るとちょうど外が見えるから

何となしに見晴らしの良い

場所を選んで走るのが

習慣になっている


短い時間で効率良く

汗をかきたいと思って

登り勾配をつけて走るからなのか

自然と目線が上を向く


走ってはいるけれど

前進しないから景色は変わらない

けれど空に浮かぶ雲は

思いの外早いスピートで

形を変えていく事に気づいて

同じ場所には留まれても

同じ瞬間には留まれない事実の

不可思議さを思いながら走る


生まれてから

目を開き寝返りをしながら

いつしか床を這い回り

何かに掴まりながら立ち上がり

知らないうち歩き出していた


自転車に乗り遠出をして

道に迷っては心細くなるのに

また同じ事を繰り返す

おそらくそのくらいから

気持ちは変わっていないと

思い込んでいたけれど


最近は鏡を見る度に

髪の毛が白くなり

どうして白髪はこうも光るのだろうと

不思議に思いながら形を整え

顔を見ると確かに

あの頃とは違う顔が

こちらを覗き込んでいる


間違いなく

あれから数十年が過ぎたのだと

受け入れざるを得ないこの現実を

突きつけられてもなお

気持ちは変わっていないと

心のどこかで願いながら

もう一方では受け容れてもいる


西暦と日付と時間

その数字がすべて同じ瞬間は存在しない


世界最速を決める大会では

千分の一秒まで測れるかもしれないが

どれだけ時間を小間切れにしても

その一コマ一コマには違いがあり

どの瞬間も常に進み続けて

決して止まる事はないだろう


老化を止める事は出来ないが

増える体重を食い止める事なら

まだ可能性はあるはずだと

自分に言い聞かせては

筋トレ器具を前にたじろぐ気持ちを

何とか奮い立たせるための儀式


一言で言えば

ただ筋トレなんてやりたくないだけ

ドレッドミルから見える

空に浮かぶ雲のように

ふわふわとただ浮かんでは消えるを

繰り返していたいだけだけれど

なかなか現実は甘くない


体重を維持するだけでも

何かしらの行動をしなければならず

歳を重ねると

それだけでは追いつかず

サプリメントやプロテインを取り入れては

意味も無く気合を入れてから

体重を測り増えていないようにと

願うのが春の風物詩になりつつある