幼い頃
牛小屋の掃除をしていると
上から生暖かい物体が
頭の上に落ちて来た
たまたま帽子を被っていたし
彼等の腸活の成果があったのか
その帽子に当たったのが
たまたま個体だったから
何とかその後のトラウマには
ならずに済んだが一歩間違えば
一生付きまとうであろう心の傷に
なっていたのは間違いない
ホヤホヤのうんこが
頭の上に落ちて来たのだ
それ以来
牛小屋の掃除をする時には
牛のお尻を見るのが習慣になった
もう二度とこんな事は
ゴメンだからね
何度となく出産に立ち会い
うんこをする瞬間も見ていたら
ある時それが起きる
予備動作がある事に気がついた
彼らはうんこをする直前
シッポを上へと上げるのだ
おそらくシッポが
汚れないようにだと思われる
その予備動作を発見してからは
牛のお尻を見ながら
掃除をしなくても良くなり
少しでもシッポが動くと
逃げるように心がけたおかげで
その後は一度も頭の上にうんこが
落ちて来る事は無くなった
そんな体験をした頃
ちょうどハレー彗星が流行っていた
田舎の夜は真っ暗で
星空なんぞはいつも100点満点
天の川の河川敷で
ピクニックでも出来そうなくらい
星々の輝きが流れるように
夜空を覆っていた
地面に寝そべって
そんな星空を見ていると
まるで宇宙に
浮かんでいるような気持ちになり
わざわざロケットで
行くこともないだろうにと
思いながら眺めていた
宇宙に関する本を
学校の図書室で読んだ時に
ブラックホールという
何でも吸い込んでしまう
宇宙の穴の存在を知り
その中へ吸い込まれたら
一体どこへ運ばれるのだろうと考えた
その本には
その答えは書いておらず
ずっと不思議で
どんな場所へ運ばれるのか
それこそ牛小屋の掃除をしながら
単純作業の退屈しのぎに
いろんな想像を膨らませて
遊び半分に考えていたら
不意にその答えに
辿りついてしまったのだ
隕石のように
落ちて来たうんこ
夜空の天の川と
ハレー彗星
何でも吸い込んでしまう
ブラックホール
牛のお尻の穴から
次々に出て来るうんこを見ながら
ブラックホールみたいだと
思った瞬間に閃いた
そうか出口はここだったのか
宇宙の外側の世界
ブラックホールのその先に
この現実があるのなら
宇宙とは牛の体の中なのだ
そしておそらく使い古して
使えなくなった物質を外へと運ぶ
その出口がブラックホール
そう思い込んだあの日から
何度も繰り返し考えるうちに
うんこする動物は
全部宇宙のように思えて
もしかすると自分の身体も
宇宙なのかも知れない
そうすると宇宙というのは
動物の個体数だけあるのではないか
だってうんこする存在は
全て宇宙なのだから
そう思ったら
確かに宇宙は無限に思えた
ただ同時に
だったら宇宙人は存在していても
会えないだろうとも思って
がっかりもしてしまった
だって自分が宇宙の内側にいたら
いくら夜空を望遠鏡で観察をしても
うんことして外へ出ないと会えないし
第一大きさが違いすぎて
宇宙人が検便で集めたうんこを
顕微鏡かなんかで観察していたら
こちらは認識できないじゃない
そう考えると永遠に
宇宙人には会えなくなってしまうから
まだ幼かったあの日
その考えを捨てる事にした
だってETに憧れていたし
今にして思うと幼い頃から自分は
そんなはんかくさい子供だったのだと
改めて思い知るけれど
最近になって
男はうんこしか産まないという歌を
歌っている女性達の動画を観て
男が産むのは
うんこだけじゃない
しらこだって産めるんだ
しかも数億個という
夜空の星々のような子種が無ければ
女性からだって子供は産まれないんだ
と独り言をつぶやきながら
不意に思い出したのだ
僕だけが知っている真実
幼い頃にたどり着いたうんこの正体
実はあなた方も
そのうんこの一部だよって
彼女達に言ったら
おそらくもっと怒るだろうなと
思いながら動画をていたら
四十年という月日が経っても
まったく成長していない事に気づいて
未だにはんかくさいままの自分を
また少し好きになれた気がして
何だか幸運が舞い降りて来たような
気持ちになって少し嬉しくなった