日本妖怪の親玉というと

言わずもがなのぬらりひょんだが

掴みどころのないその存在というのは

人の噂話と同じで

実体の無い誰かの口から出た言葉

まさに世論そのものだろう


いつの間にか入り込まれて

気がつけばマウントを取られている


それは個人の

心の隙間かもしれない

はたまた組織ガバナンスの脆弱さに

つけ込まれるケースも有るだろう

ネガティブな部分をフィーチャーして

あたかも味方であるような顔をして

ぬらりひょんは近づいて来る


噂好きというのはどこにでもいる

ぬらりひょんはその人の口を

まるでモグラたたきの穴から出入りするように

ひょいと顔を出しては辺りを伺い

また別の入り口は無いかと探し回っている


ぬらりひょんとは

悪意ではない

むしろ自然現象に近い為

謙遜だとか照れ隠しの

本音の気持ちとは裏腹な言葉も

発信されると拡めてしまう


他人の本音など赤の他人には

分かるはずもないから

事実であるその言葉だけが

一人で歩き始め端的に表せば

良い方へも悪い方へも進み

その後の現実にも

何かしらの影響を与えてしまう


伝言ゲームのように

思いを言葉に変換させて

人伝に拡める行為を繰り返す内に

雪山を転げるように加速しながら増大し

やがては大きな力となり

ぬらりひょんが実体化する


たとえばそれは

凄惨な戦争かもしれない

あるいは他者へと安らぎを与える

優しい詩になるのかもしれない

どちらにしても

ぬらりくらりと長い蛇行を繰り返し

ある時ひょいと顔を出す


話し言葉と文字を連ねる行為でも

ぬらりひょんの現れ方は変わる


たとえば思いを日記など

文章にする時に使う言葉と

会話をする時に使う言葉には

明確な違いがある


会話に限っても独り言や

気の置けない相手に使う言葉と

目上の方へ使う言葉を変えるのは

一般的だろう

文字に置き換え

後になって読み返すと

本人ですら他人のような感覚になる

それもぬらりひょん


書き出された言葉だけの印象は

一体誰なのだろう


人は付き合う相手によって変わり

暮らす環境によっても

新しい何かに出会う事でも変わる

ぬらりひょんとはそんな移ろい易い

人の気持ちを表現している


あやふやで触れる事の出来ない

不確かな現象に名を与え

まるで操られているような

錯覚を起こした

いつかの社会が作り出した幻影

それが日本妖怪の総大将ぬらりひょん