少子化なんて

集団自殺みたいなものかもしれない

自分に置き換えるとそんな感覚

突出した能力も無く

コミュニティにも上手く属せない

そんな出来損ないの遺伝子を

後世に残して何になるのか


そもそもこれから

AIの世の中へと移行するのだから

個人の能力などは

もはやそれほど関係ないのかもしれないが

それはどんな人間でも気楽に

生きて行ける事になるのだろうか


子供を作りたいという

衝動が湧き上がらないのは

自分自身の感覚に

縛られているからかもしれない


親に対しての愛着が薄くて

ずっとあんな風には

なりたくないと思っていた

特に父親の話す言葉はいつも否定的で

学校が土日を休日としてからは

毎週末に決まって

「俺には休みなんて無い」と

愚痴られるのが嫌いだった


酪農家だから

確かに休みなんて無い

今日は日曜日だから餌は要らないと

家畜が言う訳もなく

だからそんなに嫌なら

他の仕事を探せば良いと思っていた


そもそも何につけても

否定的な言葉を発する人で

出会った当初は

毎日嫌味な言葉を自分に向けられ

その度に辟易して

第一印象から嫌いになった


いつも誰かの

悪口を言いながら食事をするから

一緒に食べなくなり

高校生の頃には孤食が多くなった


両親は共にお喋りで

その話題の大半は誰かの噂話

しかも大抵は否定的な話

誰かを落として笑うのが好きな人達だから

全然知らない人の話をしていても

何となく嫌な気持ちになった


その会話に参加はしなくても

一緒に食事をするから

嫌でも耳には入ってしまう

まるで聞きたくないラジオを

延々と聴きながら食事をするみたいで

だんだん彼等と居るのが

苦痛に感じるようになった


他人の笑い声が嫌いなのも

彼らが誰かを貶めて笑っている場面を

思い出してしまうからだ

一瞬でその時の嫌悪感が湧き上がる

今思えば学校の教室が嫌いだったのも

職場のオフィスが苦手なのも

この感覚が原因なのかもしれない


元々の母親は

どんな性格だったろうか

他人の言葉に影響を受けやすくて

離婚した後も

しばらくの間は優しい言葉を

掛けてくれる人を求めて

色んな場所を転々としていたらしい


私が2歳の時だから

記憶にはないのだけれど

後で母親の姉に聞いたところでは

そういう事らしかった


確かに母親は

付き合う友人が変わると

趣味が変わるほど

誰かの影響を受けやすい


昨日までは自由気ままな

一人旅が好きだと言っていたのに

誰かの影響を受けると

ある日突然

旅行はツアーガイドに案内してもらえる

団体旅行のほうが良いと

言うような人だから

毎日誰かの陰口を念仏のように

話し続ける父親の影響を

受けない訳がない


元々のお喋り好きも相まって

毎晩誰かの陰口が

食卓を彩っていたものだから

なんか気分が滅入っていた


幸せな光景をイメージすると

いつもクリスマスの夜に

きれいに飾り付けられたツリーの横で

食卓を囲む家族の姿が浮かぶ

おそらく映画やドラマで観た場面だから

登場人物が全員外国人で

しかもなぜか窓の外から覗いているアングル


そのイメージを浮かべるたびに

自分にはそんな経験が無かったのだと

思い知らされ寂しく感じる


何らかの苦痛を伴う環境で

子供の頃に育ったなら

あんな気持ちの悪い思いは

二度としたくはないだろうから

氷河期世代とかロスジェネと

呼ばれる世代以降が子供を欲しないのも

納得出来る気がする


愛された実感がないから

愛せる自信もない

もしもあの時の彼等と同じように

自分も子供に苦痛を

与えてしまったらと思うと恐ろしくなる

あんな絵も言われぬ

気持ちの悪い存在にはなりたくない


そんなリスクを冒してまで

子供を作る理由もないし経済的な余裕もない


良いじゃないかと思う

テクノロジーの進歩によって

もう人類の役目は終わるかもしれない

これからはAIが

メランコリックな世界を作れば良い

何も人類だけが

進化の推進力ではない


シンギュラリティを受け容れて

すべてを託して保護区の中で

自由に生きるのも悪くはない選択だ

ただそこに自分達の

子孫がいる必要も無いから

ここで終わらせる

自分でこの血脈を終わらせる


少子化とは一種の集団心理に基づく

自決なのではないだろうか

失われた時代と呼ばれた三十年に

奪われてしまったのものは

もしかすると幸福感で

自分の分身とも言える子供には

同じ思いをされたくない

そんな集団心理


成功者と呼ばれるような

存在ですら子供を作らないのも

もしかすると彼等だって

苦しんでいるからなのかもしれない

そうだとすると尚更

遺伝子なんて残したくない