何か困った時

その問題が大きければ

大きい程

他人には相談しない

というか出来ない


その理由を考えてみると

そもそもカッコ悪いと思っているし

弱みを他人に知られて

攻撃されるのが怖いからだと思う


育ててくれた家族は

いわゆる普通の人たちで

彼らは生まれた土地で

生まれた家で家族や

ご近所さんに囲まれて育った

いわゆる普通の感覚で生きている


生まれた時から

同じ家族の中で暮せば

否が応でも

その家に馴染むのだろう

思春期にクラスメイトと

家族の話題を語った時に

違和感を覚えた


それは

母親がムカツクとか

うるさいとか

父親が怖いとか

口の悪い人なら

死ねば良いなんて言葉も

言っている割に

家族を愛していたからだ


当時はその感覚が分からなくて

違和感として記憶していた

世代によって言葉も変わる

同じ気持ちを表現するにも

言葉が違うと勘違いを生む


自分は彼らの言う通りの事を

本気で思っているのに

彼らは思っていない事を話していた

それは母親の悪口を

言っていたからから嫌いなんだと

思ったらそうではなくて

たまたま昨日喧嘩をして嫌な気持ちに

なった感覚を語っただけで

本気で嫌ってはいない


その違いに気がついた時から

家族の話をするのを避けた

自分の感覚が他人と違うという事を

知られたくなかった


本心を他人に話しても

理解された記憶がない

映画やテレビドラマでも

一つの感情を際立たせた演出を

見たりして

余計に気持ちが揺さぶられて

何が本心なのか分からなくなった時期もある


自分の育った経緯は

いわゆる普通の環境ではなかったから

家族や故郷に対する感覚も

普通には育たなかった


例えば

テレビドラマでもよく聞いたセリフ

子供がイタズラして

母親に「お父さんに言いつけるよ」

と言われてしょんぼりする

なんて場面は現実でもよくあった


内の家族にも

同じ事を言われた

彼らは普通の人達だから

それが命を脅かす程の脅威には

感じていない

でも僕は違った


四歳の時に養子縁組されて

家族となり

周りは時間とともに親しみを込めるように

馴れ馴れしい態度になったけれど

その変化について行けず

いつまでも誰にも懐けなかった

父親はそんな僕を嫌った

とにかく覚えているのは

厭味しか言われなかった事


「可愛げがない」

「愛想がない」

「歳の割に何も出来ない」

直接言われ続けたし

周りのご近所にも

話していたから

ご近所の人達からも

同じように言われ続けた


当時は言葉の意味が分からないから

傷ついたりはしなかったけど

嫌な感覚だけはあった

だから人に近づかないようにしていた

ただその行動が

また彼らを

苛立たせる事になってしまった


ある日父親が言った

「お前は家の子何だからもっと懐け」

言葉の意味が分からずに

黙っていると

「分かったか!」と

怒鳴られ怖くなって逃げた


父親が追い掛けて来るから

家中を逃げ回り

最後に捉まった


父親は僕の両足を右手で持ち

逆さ吊りにし

さらに「わかったのか!」と

繰り返す

逆さに吊るされた僕は

もう何が何だが分からないから

「ゴメンナサイ」と泣き叫ぶ

でも父親は止まらない

「分かったと言え」と言うけど

僕も馬鹿だから

分かってないから「分りました」と言えず

「ゴメンナサイ」を繰り返す


逆上した父親は

「まだ分かんのか!」と

僕を肩に担ぎ上げ

牛小屋へと向かった


家業が酪農だから

何十頭も牛を飼っている

その中に物凄く気性の荒い牛がいて

前に突き飛ばされた事があったから

僕はその牛を怖がっていた


その事を知っている父親は

僕をその牛のところへ連れて行き

襲わせた


まぁ襲わせたと言っても

繋がれた牛が

角を突き立てて来るところに

顔を押し付けて

一応当たらないようには

してくれていたみたいだけど

僕はあまりの恐怖に

口から泡を吹いて気絶した


後日5つ年上の

血の繋がらない兄が

「お前、口から泡拭いて、エクソシストみたいに体がブルブルして気持ち悪かったぞ」と教えてくれた


牛小屋へ連れて行かれる時

もうあたりは真っ暗で

月のないよく晴れた夜だった

街灯もない場所だから

星がとても綺麗に映っていた


プラネタリウムのような

星空の下で

僕は死を覚悟した


それは明確な覚悟じゃなく

四歳、もしくは五歳になってたか

そんな子供が抱いた想いだから

ただ「あ、死んだ」という

感覚だけしか残っていない


その後父親は僕に

一度も怒鳴ることもなく

暴力を振るう事はなかった

ただ僕の気持ちが分からない

母親に「お父さんに言いつけるよ」と

言われるたびに

あの日の恐怖が蘇り

僕は固まった


あの日以来

幼い頃の感覚では

自分が苦手にしている事や

怖い事を他人に知られる事は

死に直結するんだと思い込んだ

だから

カッコ悪いところを見せたくないし

何より

弱みを逆手に取られられると

命に関わるから

困れば困る程

身軽に逃げ出すために

一人になりたくなる