帰りたくなる場所

 幼い子供が電車を降りて、自分の乗って来た車両が

ホームから去って行く後姿に手を降って見送るのを見て思い出す

 

 子供の頃から乗り物が好きで

バスとか電車の中でよくはしゃいで怒られた

当時、乗り物に乗ってマクドナルドに

行くのが楽しくて仕方なかった

大きくなったらビッグマックを

一人で食べるのが夢だった

 

そんな子供が

突然、母親に「飛行機に乗せてあげる」と

言われたら断るなんて選択肢は存在しない

 

幼い4歳の私は

飛行機に乗るという事は

どこか遠くへ行く事だとは

思っていなかった

それがまさか

引っ越しを伴う大移動に

なるとは思いもよらず

ただ変だなと思う事は

たくさんあったけれど

それも飛行機のパワーに

かき消されてしまった

 

例えば荷造り

母は言った

飛行機に乗るためには

家の中の荷物を

全部持って行かなければいけない

 

さすが飛行機

家ごと運べるなんてスゴイ

と感動したのを今でもハッキリ覚えているし

新しい父親や家族をも連れて来て

二人暮らしだった環境を

大家族に変えてしまったのも

飛行機のおかげだと思い込んでいた

 

幼い自分がなぜ

そんな勘違いをしたのか

それは今持って謎だが

当時の僕の感覚は

飛行機に乗る事がすべてだったし

周りの大人も

その思い込みを利用したんだと思う

 

物心ついた時には

母と二人暮らしで実感として

家族という存在を理解していなかったから

とにかく飛行機がもたらす物は良いものとして

すべて受け入れた

 

母親の再婚に伴って

神奈川県から北海道へ移住する事も

あっさりOKしたし

それまでの環境だってあっさり捨てた

家も公園も友達も全部

飛行機に乗るためには捨てなければ

いけないと思い込んで捨てた

 

四十年前の北海道、しかも農村部は

子供にとってファンダジーだった

山も空もとにかく全部デカい

カブトムシなんて山に行かなくても

家の前にメロンの食べかすを

置いておけば向こうから

勝手に飛んでくるというミラクルワールド

そんなの子供が好きにならない訳がない

本当に飽きるまでは楽しくて仕方なかった

 

ファンタジーなミラクルワールド

それはつまり感覚で

非日常的な環境も慣れてしまえば

ただの日常になってしまう

 

すべては飛行機に乗るためについた嘘で

ホントは家も公園も友達も捨てたつもりはなかった

乗ってしまえばこっちの物だと思っていた

大人が子供についた嘘もあれば

子供が大人についた嘘もあった

そしてある日

家に帰りたくなった

 

北海道生活を目いっぱい堪能して

飽きたから帰ろうと

幼い僕は周りの大人に言った

 

最初はみんな笑っていたし

僕も笑っていたけど一か月も同じ事を繰り返すと

さすがに大人達もザワザワし出して

僕もイライラし始めた

大人たちは神奈川の家はもう無いという説明を

何度も繰り返したけど

僕は納得出来なかった

 

あなたの家はここだと言われても

物心ついた家はここではないし

ただ飛行機に乗るためについた嘘が本当になるなんて

思ってもいなかった

もうあの場所へは帰れないと気づいて

初めて帰りたいと思った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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