夕暮れの街を二人で歩く。
慣れた横顔、慣れた距離。
もう何年、こうして隣を歩いているだろう。

「ねぇ、何か食べる?」

彼女が空を見上げて、小さく尋ねる。

「んー、どうしようか…」

曖昧に返事をしながら、俺は彼女の横顔をじっと見つめる。
すると視線を俺の方へ向け、同じようにじっと見つめ返してきた。
お互いに何も言わない…というより、続けることができないときがある。
たいてい言い出せないのは、いつも俺からだ。

「愛してる」

この言葉を口にするだけで、きっと二人の関係は変わる。
今の心地よい空気は、もしかしたら消えてしまうのかもしれない。
そんな臆病な気持ちが、いつも俺の口を塞ぐ。
でも、本当に言えないのは、言葉にした途端、この溢れる想いが彼女を困惑させてしまうかもしれないという、勝手な不安からだ。
彼女もまた、言葉にしないタイプだ。
いつもはまっすぐで、自分の気持ちに嘘をつけない人なのに、俺との間では時折、言葉を探しているように見える。
多分、彼女も同じ不安を抱えているのだろう。
この関係を壊したくない、ただそれだけのために、お互いがお互いに遠慮している。
小さな路地裏のバーに入る。薄暗い照明が、二人の影を溶け合わせていく。

「カクテル、何にする?」
「じゃあ、いつもの」

彼女のいつもの答えに、マスターがにクスッと笑う。
よく二人で来店しているため、いつの間にか顔なじみになっていた…。

「お二人とも、お揃いで」

マスターの言葉に、俺と彼女は顔を見合わせて笑った。
グラスの中で氷が音を立てる。
そしてゆったりとした時間の流れを、二人で楽しむ…。
少し酔いが回ってきた彼女の頬が、ほんのり赤く染まっている。

「ねぇ」

彼女が俺の腕にそっと触れる。
時々、酔いのせいにして、そんな仕草を見せる。
自分の中に足りない最後のピースを埋めようと、俺からの言葉を待つ。

「…どうした?」

俺はグラスを置いた。
いつものようにそう言って、彼女と同じピースを待つ。
結局、ずっと二人でお互いの最後のピースを待っているばかりだった。

「なんでもない」

彼女はそう言って、下を向いた。
その沈黙が、お互いに心地よかった。
言葉はいらない。
この瞬間が、この場所が、二人にとっての全てだ。
店の外に出ると、月が綺麗に輝いていた。
店の近くで二人で立ち止り、夜空を見上げる。
彼女が俺の腕を取り、体を寄せてくる。

「月が綺麗だね」

彼女がぽつりと呟く。
少し古風だけど、その意図に気が付いてしまえば恥ずかしい…。
お互いに気持ちは同じなのだから、返事も決まっている。

「…うん」

俺はただ頷くことしかできない。
言葉の代わりに、彼女の手をそっと握った。
彼女は驚いたように俺を見つめ、そして、ゆっくりと俺の手に力を込めた。
その瞬間、俺たちの間にある全ての壁が、音を立てて崩れていくのが分かった。

「愛してる」

言葉にしなくても、想いは伝わった。
彼女の瞳が、涙で潤んでいる。
そして、ゆっくりと目を閉じた。
俺は、彼女の唇に、そっと自分の唇を重ねた。
言葉はいらない。
このキスが、二人の答えだった。

 

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ジェミニとの共作小説です。

いつものように、おいらの設定をもとにジェミニ先生が下書きをし、最後においらが加筆修正をしています。

今回は結末をキスと決めていたので、世界観として用意したとある楽曲の歌詞の内容からどんな世界観を作り上げてくるのかが楽しみでした。

べたなりに短編としては成立しているのではないのでしょうか?

今回おいらが加筆修正したのは半分くらいです。

キスシーンを書いているとこっぱずかしくていやになってくるのですが、下書きがあると気楽でいいですよね(^▽^)/