「ごめ~ん。午前中に家の掃除手伝っていたら、遅くなって…」
「メールで連絡してくれてたから、俺も少し遅く家を出たからそんなに待ってないよ」
「それなら、良かった~。はぁ…」

少し息を荒くして眩しい笑顔をぶつけ、息を切らしながら謝っている。
そんな彼女を見つめながら、本当のことを伝えると、安心した表情を向けてくれた。

「落ち着いた? 急がないし、ゆっくり行こうか」
「うん♪」

待ち合わせ場所から離れ、街中を歩きだす。
休日の昼下がり、雑踏の中で彼女の指先が彼氏の指先に触れる。
それだけで、なぜか心が震える。
そして、指を絡めあい恋人つなぎで互いの指先が落ち着く。
言葉なんていらない、この瞬間が永遠に続けばいい。

「ねぇ、あっちのお店、見てみない?」

彼女がガラス越しのマネキンを指さす。
いつもの少し高めの声。
飾り気のない笑顔が、俺の一番好きなものだ。
そして隣のマネキンも指さしながら、楽しそうに微笑んでいる。
小さく頷き、自然と繋いだ手を少しだけ強く握りしめた。
彼女の指は、少しだけ冷たい。
でもそれが、彼氏にとって心地良い。

「これ、可愛いね!」

マネキンを指さしたお店に入り、店内を少し回る。
彼女が店内で手に取ったのは、小さなキーホルダーだった。

「お前に、似合うんじゃない?」

とだけ返す彼氏。

「んー、どうかなぁ。持ってくれそうにないし」
「プレゼントしてもいいけど、持ってはやらないぞ。そもそも軽いし」
「えぇ~。すぐバックに付けるわけじゃないから、家に着くまでは持ってよ~」
「すぐに付けなくていいから、バックに入れておけばいいじゃん…」
「けちぃ~。あはは…」

なんて冗談めかして言われると、つい笑ってしまう。
彼女といる時間は、まるで魔法みたいだ。
何の変哲もない日常が、輝きを増す。
普段は気にも留めないショーウィンドウの品々も、彼女と一緒だと面白く見える。
彼女がいない時間は、時々、色褪せて感じることもある。
まるでモノクロームの世界に置き去りにされたような、そんな退屈さ。
しばらく見て回ってからお店から離れ、また道中を進む。
そして、小さな公園に入りベンチに腰を下ろす。
木漏れ日が、彼女の髪をきらきらと照らしていた。

「今日、本当に楽しいね」

彼女が目を細めて笑う。その笑顔が、俺の胸をぎゅっと締め付ける。

「特に、どこか特別なところに行ったわけでもないのにな…」
「ええっと…、楽しくないの?」
「そんな風に見えるのか? 楽しすぎて、はしゃぎすぎないようにしているのも大変なんだぞ」
「私は、はしゃいでくれてもいいのになぁ~」
「俺自信が、恥ずかしいんだよ。はしゃいでいる自分い気づいたときがさ…」

好きな人といるからこそ楽しい。
この気持ちを、言葉にすればいいのだろうか。
「好きだよ」…。
たった三文字。
それなのに、喉の奥に引っかかって、どうにも出てこない。
彼女もまた、同じように感じているのだろうか。
彼氏とは違い彼女は感情表現がストレートなタイプだ。
なのに彼氏との恋愛においては、どこか慎重になっているようにも感じている。
彼氏は彼女がいない時間を、彼女は彼氏がいない時間を寂しいと感じていると、お互い気付いていた。

「あ、見て!あそこに猫がいる!」

彼女が指差す先には、日向ぼっこをしている猫がいた。

「可愛い~」
「お、おい…」

そう言って、彼女は猫に駆け寄っていく。
その無邪気な後ろ姿を見ていると、彼氏の心もふっと軽くなる。
言葉にはしないけれど、お互いの気持ちを分かっている。
この曖昧な関係が、今の二人にとっては一番心地良いのかもしれない。
それでも、いつか、この溢れる想いを伝えたい。
そう、心の中で何度も呟いた。

「そろそろ、帰ろうか」

猫をなでている彼女を存分に眺めてから、そう言葉をかけた。
彼女が振り返って、微笑みかける。

「うん」

再び手を繋ぎ、来た道を戻る。
夕焼けが、二人の影を長く伸ばす。
今日一日、特別なことは何もなかった。
でも、それが一番楽しい。
彼女の隣にいる、この瞬間が。
新たな関係は、この瞬間にお互いの「好き」という言葉が重なったとき。
そう遠くないスタートラインを迎える、その日まで…。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

 

1ヶ月ぶりのショートストーリーです。

今回は比較的解りやすい設定で物語を進行させました。

メインとなるのは二人の心情の在り方です。

台詞として「好き」と言わせるのは意外と簡単なのですが、逆に言わせずに「好き」という感情を綴るのって意外と大変です。

書き手は読み直しても理解できますが、読み手の方にどのように伝わるかはその人次第なので(;^_^A

だからこそ、物語を綴るのって魅力がそんなところに遭ったりもします。

今回もジェミニ先生の方にキーワードを40~50個送り込み概要を作ってもらい、おいらが細かく肉付けした感じに作業内容となっております。

キーワードを教えるときには、こんな感じの物語になってくるんだろうなと想像しながら教えています。

実際に出来上がった概要との差を見てみるのが楽しいですね♪