桜並木の約束
卒業式まであと数日…。
この卒業式が終われば、来年度は自分たちの番だ。
彼は、いつも通り彼女と学校の帰り道に寄り道した公園のスツールに腰掛けた。
平年よりも早咲きをしてしまった桜並木は、もう花を散らし始めていた。
「来年は自分たちの卒業か…。なんか寂しいな…」
彼がそう呟くと、彼女は大きく頷いた。
「私も。毎日一緒に学校へ通ってたのが当たり前だったのに、それが終わっちゃうなんて、考えられないよ」
二人は、いつも通りのように学校の出来事を話したり、将来の夢について語り合ったりした。
お互いに好きなテレビ番組の話をしても、どこかかみ合わない…。
そんな歯痒さを抱きながらも、平静と取り繕うとしていた。
でも、どこかいつもと違う、切ない空気が二人の間を漂っている。
「大学はどこに行くの?」
「………」
彼が尋ねると、即答はなかった。
自分たちにはまだ、時間的な猶予があるから答えにくい。
けれど、いつまでも悩んでもいられないのも事実だったりする。
彼女は少し考え込んでから答えた。
「まだ、よくわかんないな。でも、君はどうするの?」
「俺は、地元の大学に行こうと思ってる。けど、親の会社を手伝うかもしれない…」
彼は、どこか自信なさげにそう言った。
要は、決めかねているということだ。
彼女にとって、彼がどちらの選択しても地元にいることには変わりはない。
「それはそれで素敵じゃん。地元で、君とずっと友達でいられるし」
彼女はそう言って彼を見つめた。
顔は嬉しさであふれているが、彼女の声はそうではないことに気づいた。
いつもの声とはトーンが違う…。
「でもさ、ちょっと不安なんだよね」
「幼いころからの夢を追うかもしれないんだろ?」
「う、うん…」
お互いに人生の初めての岐路の選択の重さが大きい。
先に詳細を決めて、目標へ向かう準備をしている同級生もいるが、自分たちは違っているのだ。
まっすぐに将来として向き合うことができない不安が、頭をよぎるたびに判断を鈍らせている。
「そうなると、君とは今と同じようにお話ができなくなるかもしれない…」
「………」
「ただ、それが、悲しくて…」
両腿の上に軽く握られた彼女の二つの拳を、彼はとっさに掴んだ。
「えっ!?」
自分よりも真剣に将来を考えている彼女から、悲しい言葉をこれ以上言わせたくなかったからだ。
だからこそ、自分よりも大きな不安に駆られているのだろうと考えた。
彼は、正直な気持ちを打ち明けた。
「きっと大丈夫だよ。たとえ離れていても、心は繋がっているんだから」
彼女は、彼の言葉を静かに聞いていた。
そして、軽く握っていた拳を解き、彼の手に自分の手を重ね直した。
彼の言葉に、彼女は少し安心した。
「そうだね。それに、またすぐに会えるよね」
「はは…。お前は笑っている方が素敵なんだから、悲しいこと言うな…」
自分が言った言葉にくすぐったくなり、立ち上がる彼…。
そんな姿を見ていた彼女が、くすくすと笑っていた。
「私、友達少ないから、何でも言える友達が君でよかったよ♪」
「進路を決めるまで一年もないけど、悩んだらお互いに話し合おうぜ」
「そ、そうだね」
二人は、そう言い合いながら、桜並木をゆっくりと歩いていった。
夕焼け空の下、桜の花びらが舞い散る中、二人は静かに約束を交わした。
「来年卒業しても、ずっと友達でいようね」
「ああ、ずっとな」
彼らは、卒業という新たな章を迎える準備をしながらも、今のこの瞬間を大切に過ごそうと心に決めた。
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卒業しても気づかない限り何を学んだのかわからないことってありますよね。
学校という生活環境は、学業を修めるだけの場所ではないので。
それを根底に次は自分たちの卒業というのを根底に進路に悩む二人の普遍的な心情を描いてみました。
なんかこの短編を綴っていて、おいらがこの彼役をやりたいなと思ったのは秘密です(;^ω^)