血圧の薬を飲んでめまいがしている夜
吉井はふらふらと街を徘徊していた
いつもの景色が縦にも横にも引き伸ばされて
ここが何処なのかちょっと時間をかけて
考える必要があった
けれど自分の慣れ親しんだ街のこと
それもまた一興と
吉井は繁華街をぐんぐん進んで行った
見たことのあるヤクザものが
肩で風を切って歩いていた
いつもなら気に食わない相手には
すれ違いざまに
それとなく嫌がらせをするところだが
今日はやめておこう
それほど機嫌が悪いわけじゃない
吉井はわざと小さなくしゃみをして
その男と目を合わせなかった
橋の上に
純白のドレスを着た女が立っていた
数十メートル先からその女は
こっちを凝視している
吉井はその光景が現実とは思えず
気持ちの整理がつかないまま
女に近づいて行った
けれどそれでいいのさ
どうせこれは夢で
その女も現実のものでは無いはずだから
あきらかに日本人のような顔の女は
カラコンでもしているのか
青いというかグレーの瞳でこちらをみた
その顔がなんとなく気に入って
吉井は女を抱き寄せ
頬にキスをしようとした
いつもたいていはこんな場面で目が覚める
だがその日に限って
それは特になんの障害もないままに
そのまま事が進行してしまった
早朝に目が冴えて
横に寝ている女房の顔を見ている
純白のドレスの女と同じ顔
なかなか気の利いた
夢じゃないか
吉井は気づかれないように
そっと横の女の頬にキスをした

