いつもなら見て見ぬふりをしたに違いない


信号待ちの交差点で


チラッと見た照明分電盤の上に


無造作に腕時計が置いてあった



誰のものかわからない時計



酔っ払いがこんな所に置いて行ったのか


それとも道端に落っこちていたのを


誰かが拾ってこの上に置いたのか



私は道端に落ちているものには


やたらと触らない



例えばそれが財布であったり


ある程度高価なものであった場合


交番に届けるという


ひどく面倒な作業が発生するからだ



そんな事は放っておけば私でなくても


誰か暇な人がやってれるに違いないから



けれどその時計にだけは


何故かいつもの様に素通り出来ない


何かを感じた



よく見るとその時計のベルトは


編みこみ形状で金属製なのに


ゴムバンドの様に伸縮するタイプのやつだ



農家だった実家の親や祖母が


いつもこのタイプの時計をつけて


農作業をしていた



このタイプはとにかく着脱が簡単で


着けてても腕を圧迫しないから


一度使い始めるともう他には目がいかなくなる



それで壊れて買い換える時は


安物の時計のワゴンセールコーナーで


私も親と一緒に


このタイプのベルトの時計を探したものだった




私は分電盤の上の時計を手に取って


ベルトをビヨーンと伸び縮みさせてみた


何かひどく懐かしい



そのアナログ時計は


文字盤が普通の数字の


至ってシンプルなタイプだが


秒針がちゃんと動いていた




私はその日に限って


会社には体調不良で


出勤が少し遅れる連絡を入れて


交番へ向かった