少し開けた窓から


冷たい風が部屋に入ってきて


夜明け前に目が覚めた



外はほんの少し甘い匂いが混ざった風が


吹いているみたいだ



ちょっと川べりの空気が吸いたくなって


外に出ると



ひとつ部屋を隔てたお隣の山崎さんが


同じタイミングで部屋の外へ出ていて


僕は思わずペコっと頭を下げた




山崎さんは初老の紳士



いつからかはっきりとは覚えていないが


もう10年以上ここに住んでいるはずだ



人付き合いが極度に苦手で


99%引きこもり体質の僕でも


いつも穏やかで


会話の中で何も余計な詮索をしない


山崎さんは


僕が普通に会話出来る稀有な人だった




僕も山崎さんには余計な事は何も聞かないが


酒飲みの僕の妻は


苗字が山崎というだけで


妙な親近感を持って


彼にいろんな事を聞いてしまうみたいで


山崎さんの事をいろいろ知っていた



仕事は街の食品卸会社の経理をしている事


今は独身でここに暮らしているが

 

ひとり娘が街の病院で看護師をしている事




奥様とは10年前に別れたけれど


娘が自立するまでは


毎月仕送りを絶やさないように


家賃の安い


このアパートに越してきている事



車が大好きで


若い頃はスポーツカーを乗り回して


車いじりが趣味だった事




だがそれが夫婦仲が壊れた


何らかの原因みたいで


今は敢えて車の置けない


この場所に落ち着いている事




お酒は決して強くは無いが大好きで


ほぼ毎日晩酌をしてる事



好きな肴は卵豆腐とか茶碗蒸しとか


なんか消化のいい柔らかいもの


(たぶんお尻に問題があるみたい)




山崎さんは川べりで


いつもの様に流れを見ながら


ショートホープを一本吸ってから


部屋に戻った




僕も下から自分の部屋のベランダを見上げ


干している洗濯ものが


風に飛ばされてしまわないかどうか


確かめてから部屋に戻った



朝靄のかかった空に


薄い色の月が浮かんでいて


まるで古びたアパートと下界の住人を


優しく見守っているみたいだった