彼女を見たのは



大雨とは言えないけれど



気づけばずぶ濡れになっているくらいの



鬱陶しい雨の夜だった





自分の部屋の前に


酔っ払ってうずくまっている



年齢不詳の



綺麗な女の人だった





初夏なのにコートを着て



雨に打たれて



コートが何倍にも重くなって



痩せた彼女を押しつぶしてしまうのを



思わず心配するくらいだった




けれど僕は


この可哀想な女に声をかける勇気はなく



そのまま部屋に引きこもって



大きなヘッドホンをして



外界の音を遮断してゲームの世界に没頭した




次の朝、、、と言うかほとんど昼前に



ドアを開けた時に彼女はそのままそこにいた



僕は驚いて


もう一度部屋に戻ろうとして


向き直ったけれど


気づけば彼女は勝手に部屋に入ってきて


まるで自分の家の様に


冷蔵庫を開けて飲み物を物色して


見つけたポカリをがぶ飲みして


そのまま僕のベッドに突っ伏して


寝てしまった




そんな重大な



交通事故の様なことが無ければ


内気な僕が


自分から女の人に声をかける様な



無茶苦茶な事が起こるはずが無かった



それから



20年以上経って



妻にその夜の事をさりげなく聞いてみたけれど



 「忘れた」



そうあっさり言われて



それ以上何も言えなくなって



出勤のついでに



地区のゴミ置き場にゴミを出して


いつものように


つまらない仕事に向かうのだけれど




あの日の彼女の姿が蘇ってきて



こんな出鱈目な出会いも悪くなかったと



この変な名前のアパートに住んでいて


本当によかったなと神様に



こっそり感謝してみたりするのだった