香取恭子は夕飯の食卓で母親から
同級生の優太が
地元に帰って来ている話を聞いた
病気で奥さんに先立たれ
小学校にあがる直前の子を育てるのに
実家の親の手を頼って
都会から戻って来たらしい
優太の母親は恭子の母親と
昔同じ職場にいた時からの関係で
そう言った話は
独身で実家暮らしの恭子の耳によく入った
「 それで? 」
恭子は微妙にザワつく胸中を
母に悟られない様に
わざと一回咳き込む振りをして
もう少し詳しい話を聞こうとしたが
話はそこで終わってしまった
「 恭ちゃんが優太のお嫁さんに
なってくれたら良かったのに 」
一度、母と談笑していた優太の母に言われた
冗談とも取れる言葉を
恭子はいまだに覚えていた
[ 線香と珍味か、、」
優太は名取と言う苗字だったので
中学の頃ついたあだ名は珍味だった
誰かがおつまみのパッケージで見つけた
言葉そのままだった
恭子は香取と言う苗字に加え
当時の音楽の先生と
同じ形のメガネをかけていたので
先公の意味も含めて
線香とあだ名がついていたが
そのあだ名以上に
“かとりとなとり”と言う語呂の良さで
二人はコンビにされる事が多かった
「 ばっかじゃないの? 」
恭子は頭の中で
ほんの一瞬
自分の苗字を置き換えてみた後
いきなり親になる覚悟も無い自分に
言い聞かせる様に
ワザと言葉に出して言った

