アパート2階の部屋


ベランダのカーテンの隙間から


恭子がそっと下を見ると


電柱の陰に白いコートを着た男が


こちらを見上げている光景が


一瞬見えたような気がした


だが、こんな暑い日にコートを着た人なんて


いるわけがない


おそらく見間違いだろう



少し熱めのコーヒーを啜って


気分を落ち着かせると


恭子はいつものように職場へと急いだ




淳はある雨の日に


電話ボックスの中に


手帳を忘れて出て行った人を見た


ひどく追い詰められている様子で


電話をし終わると慌てて出て行った



彼女は水滴に濡れた電話ボックスの内側に


指で”たすけて“と書いていた


淳は手帳を忘れていると彼女に声をかけたが


彼女は気づかない


仕方なく手帳を拾いあげようとしたが


どうやっても手帳に触れ無い


そこで初めて自分が


もうこの世の者では無い事に気付いた






今日も彼女は


なんとかうまくやっているようだ



携帯電話が普及して


年々減っていく電話ボックス


あの電話ボックスも


数ヶ月前にとうとう撤去されてしまった


淳はその電話ボックスがあった場所に佇んで


白いコートの襟を立てた