その日の仕事帰り


私は駅の改札口を抜ける


ある男に興味を持った



服装こそ微妙に違うが


身体つきと後ろ姿が自分によく似ている



たまたま仕事が早く切り上げられて


時間に余裕があった事もあって


私は自分の通勤路とは


別の道を歩いている男に


思わずついて行ってしまった



早足で追い越してチラッとだけ


顔が見れたら満足する筈だった



私は歩く速度を上げる


だが、前を歩く男は思いのほか歩くのが早い



私はもはや小走りくらいの速度で


前の男に追いつこうと必死について行く



すると


前の男は不意に狭い路地裏に入って行った



私もついて行こうとした


だが、路地裏に入った途端、男の姿が消えた



転勤で、この街で暮らし始めてもう五年になるが


こんな場所へ入りこんだのは初めてだ



私はキョロキョロと見慣れない看板に


散乱したチラシの文字を目で追いながら歩く



しばらくして、もうあの男のことは諦めて


引き返す事にした



いつもの通勤路に戻りしばらく歩いていると


なんとなく背中に視線を感じる気がする



私は思わず早足で家路へと急ぐ


だがコツコツという靴の音が


私の後ろを一定の間隔でついて来ていて


何か不気味な感じがして


私は思わず小走りになる


だが、靴の音も同時に早くなる


私は焦り


今まで入り込んだ事のない路地裏に


突入して行った